- 2023.07.12
- mattoco Life編集部
日本銀行の金融政策は住宅ローン金利にどう影響する?利上げに備える方法を紹介
日本銀行(以下日銀)は、物価の安定のために金融政策の決定と実行を行っています。日銀の政策によって市場金利が変動するため、住宅ローン金利にも影響を与えます。利上げが実施されれば、住宅ローンの返済負担が増えることがあるかもしれません。
そこで今回は、日銀の金融政策と住宅ローン金利の関係や利上げに備える方法を紹介します。
日銀の金融政策が住宅ローン金利に与える影響
日銀は、2013年1月に物価安定の目標を「消費者物価の前年比上昇率2%」と定めており、できるだけ早期に実現すると公言しています。*1
2016年には日銀の当座預金金利に-0.1%を適用する「マイナス金利」や長期国債の買い入れによる「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)」を導入し、日本の政策金利は低く抑えられてきました。*2
住宅ローン金利は、日銀の政策金利を指標としています。現在は低金利が続いていますが、日銀の金融政策が修正されることがあれば、住宅ローン金利が上昇に転じることも考えられます。また、「変動金利」と「固定金利」では影響の受け方が異なります。
変動金利
変動金利とは、借入期間中に適用金利が変動するタイプの金利です。多くの金融機関では、短期プライムレートに1%を上乗せした金利を基準金利としています。短期プライムレートは、1年以内の融資をする際の最優遇貸出金利です。*3
政策金利が上昇しても、変動金利の住宅ローンの適用金利がすぐに変更になるわけではありません。金利が急上昇しても返済額が大きく変わらないように、多くの金融機関で「5年ルール」と「125%ルール」を用意しています。*4
5年ルールとは、たとえ適用金利が変動しても、5年間は月々の返済額が同じになる仕組みです。ただし、返済額に占める元金と利息の割合は変わります。
例えば、毎月の返済額が10万円(元金9万5,000円、利息5,000円)であった場合、適用金利が上昇すると、毎月の返済額は同じ10万円でも、内訳は「元金9万円、利息1万円」などに変わることがあります。
125%ルールとは、適用金利が大幅に上昇しても、見直し後の返済額は直前の返済額の最大1.25倍までとなる仕組みです。
利上げが実施されても、5年ルールや125%ルールによって毎月の返済額への影響は抑えられます。ただし、返済額に占める利息の割合が多くなり、元金の返済が進まない可能性があるので注意が必要です。
固定金利
固定金利とは、適用金利が変わらないタイプの金利です。
借入時の金利が返済終了まで変わらない「全期間固定金利」と、借入時から一定期間だけ金利が固定される「当初固定金利」の2種類があります。*4
住宅ローンの固定金利は、長期国債利回りを指標としています。長期国債の利回りが上昇すると、固定金利の住宅ローン金利も上がる仕組みです。
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日銀の金融政策の動向
住宅ローンを利用する予定がある場合は、日銀の動きを把握して、適用金利への影響を確認しておくことが大切です。それでは、日銀の金融政策の動向を見ていきましょう。
長期金利の変動許容幅の上限を0.5%程度に引き上げ(2022年12月)
2022年12月20日の金融政策決定会合で、長短金利操作の一部見直しが行われました。0%程度に誘導している10年国債利回りの許容変動幅を、従来の±0.25%程度から±0.5%程度に拡大するという内容です。
長短金利操作の見直しは事前予想がなく、金融・証券市場では事実上の利上げとの見方が広がったため、長期金利は急上昇しました。*5
日銀総裁が交代(2023年4月)
任期満了に伴い、2023年4月9日に日銀総裁が交代しました。*6
今後の新総裁の金融政策についての発言等が注目されています。
また、2023年4月28日の金融政策決定会合では、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指すことが決まりました。*7
従来の金融政策から大きな変化は見られませんが、新たな総裁の下で金融政策が修正されることがあれば、政策金利が上昇し、住宅ローンの適用金利が上がる可能性があるかもしれません。
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住宅ローンの金利上昇リスクに備える方法
変動金利の住宅ローンは、適用金利が上昇して返済負担が増える「金利上昇リスク」があります。金利上昇リスクへの備えとして考えられる対策は以下の4つです。
全期間固定金利を選ぶ
全期間固定金利を選択すれば、返済終了まで借入時の適用金利は変わりません。政策金利の変動にかかわらず、借入時に適用金利や返済額が確定するため、返済計画を立てやすいでしょう。
一般的には、固定金利期間が長くなればなるほど金利は高くなりますが、金利上昇リスクを回避したい場合は全期間固定金利が向いています。*4
ミックス借入を利用する
変動金利の住宅ローンは、金利の低さが魅力です。しかし、将来金利が上昇すれば、返済負担が増えてしまいます。
変動金利と全期間固定金利のどちらにするか迷う場合は、この2つを組み合わせた「ミックス借入」を利用するのも選択肢です。ミックス借入なら、変動金利と全期間固定金利それぞれのメリットをバランスよく受けられます。*4
ただし、金利プランの組み合わせがいろいろとできるため、ミックス借入を選択した場合の住宅ローンシミュレーションが難しく、どういう組み合わせにすれば最適なのかの判断がつかないこともあります。また、ミックス借入の場合は契約が2つになるため、諸費用がその分かかってしまうことにも注意が必要です。
一部繰り上げ返済を検討する
すでに変動金利で住宅ローンを借りている場合は、一部繰り上げ返済を行うことで、利息負担の軽減が期待できます。
一部繰り上げ返済とは、毎月の返済とは別に、元金の一部を任意のタイミングで返済することです。元金の返済が進むため、利息の圧縮に効果的です。
まとまった額を返済すると手元資金が減ってしまうので、無理のない範囲で計画しましょう。
固定金利のローンに借り換える
金利が低いうちに変動金利から固定金利の住宅ローンに借り換えることで、金利上昇リスクを回避できます。
ただし、固定金利は変動金利よりも適用金利が高いので、通常は返済額が増加します。返済額の増加を抑えたい場合は、当初の一定期間のみ金利が固定される「当初固定金利」に借り換えるのも1つの手です。固定金利適用期間を自身で選ぶことができ、決定した期間は金利が固定され変動しません。固定金利適用期間終了後には再度固定金利にするか、変動金利にするのかを選択ができます。
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まとめ
日銀は金融緩和継続の方針を示しており、長短金利操作によって政策金利も抑えられています。しかし、今後は金融政策が修正され、利上げに転じることがあるかもしれません。変動金利の住宅ローンを利用する場合は、金利上昇リスクについての備えをすることも大切です。
*1 出所)日本銀行「金融政策の概要」
*2 出所)日本銀行「日本銀行について Q金融市場調節方針の変遷を教えてください。」
*3 出所)auカブコム証券「金融/証券用語集」
*4 出所)三菱UFJ銀行「住宅ローン 金利タイプ」
*5 出所)三菱UFJ国際投信「特別レポート 日本:日銀が長期金利変動幅を拡大、円高と株安が加速」
*6 出所)日本銀行「総裁の発令について」
*7 出所)日本銀行「当面の金融政策運営について(2023年4月28日)」<PDF>