B Corp(B Corporation)とは、米国の非営利団体「B Lab」による国際認証制度です。厳格な評価のもと、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられます。
「B Corp(B Corporation)」はアメリカ発の国際企業認証で、認定企業は利益を生み出すと同時に明確な社会目的を最優先する「社会的企業」であるという認知が得られます。
B Corpは欧米での知名度が高く、最近は欧米の中小企業を中心に取得企業が6,000社を越え、認証企業同士の連携を強化しつつあります。
一方、日本では企業認証はISOが主流で、環境マネジメントシステムに関する国際規格であるISO14001の国内認定企業は2023年5月12日現在12518社*1に対して、B Corpの認証企業はまだ23社*2しかありません。認証取得の効果として、①社会的信用の獲得②第三者の視点による問題の発見③継続的な改善等があります。今後の日本企業の動向が注目されます。
B Corpとは
まずB Corpの概要についてみていきます。
国際的な認証制度
B Corpとは2006年に始まった国際的な企業認証制度で、アメリカの非営利団体B Labが運営しています。*3
B Corp認証は、社会的・環境的パフォーマンス、説明責任、そして透明性において高い基準を満たした企業のみに与えられます。
B Corpの「B」は、英語の「Benefit(便益)」を意味し、株主だけではなく、従業員や顧客、社会や環境に対して有益であることが企業の成功であるとされています。
2023年5月時点での認定企業は、90か国の6,778企業です。*4
一方、日本のB Corp取得企業は2023年5月時点で23社であり、まだまだ普及の余地があります。
認証基準
認証基準は以下の5つのカテゴリーで、200以上の質問からなるBIA(Bインパクトアセスメント:B影響評価スコア)調査表に答え、200ポイント中、合計で80ポイント以上を獲得することです。*5
- ガバナンス(ミッションとエンゲージメント、倫理と透明性、ミッションの締結)
- 従業員(経済的安定性、従業員の健康とウェルネスと安全、キャリア開発、エンゲージメントと満足度)
- コミュニティ(多様性、公平性とインクルージョン、経済的影響度、市民参加と支援、サプライチェーン・マネジメント)
- 環境(環境マネジメント、大気と気候、水、土地と生物多様性)
- 顧客(顧客管理)
ただし、BIAの内容は企業規模や組織形態、地域などにより異なります。
認定期間は3年間で、認定を維持するためにはBIAを更新して提出し、3年ごとに検証を受けなければなりません。*6
したがって、一旦B Corpを取得してからも、常に上の5つのカテゴリーで改善を続ける必要があります。
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ESG投資とB Corp
次にESG投資とB Corpの関連をみていきましょう。
ESG投資とは
ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をつなげたものです。「ESG投資」とは、環境や社会に配慮して事業を行っており、適切なガバナンス(企業統治)がなされているかどうかという観点から、その取り組み状況に基づいて投資対象を選ぶ投資のことです。*7
こうした企業に中長期的に投資することで、リターンが期待できると考えられています。
ESG投資の拡大
2020年の世界のESG投資総額は全体で35兆3千億ドルに達し、2016年からの4年間で世界のESG投資残高は1.5倍、日本では5.8倍に拡大しております。
日本のESG投資残高は世界全体の約8%です。日本の全運用額に占めるESG投資残高の割合は約24%で、年々その割合が高まっています。
ESG投資の市場規模
出所)財務省主計局「ESG投資について(令和3年12月1日)」P12
ESG投資とB Corp
B Corpの目的は、ビジネスにおける成功を再定義することです。
その再定義では、株主の利益の最大化を唯一の成功とせずに、企業がその事業活動を通じて、社会環境やコミュニティ、従業員に対するすべてに利益を産み出すことを成功と定めています。
B Corpの認証取得のプロセスでは、ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、顧客という5つの分野における企業のベネフィット(利益)への取り組みがBIAによって評価されますが、同時にESG要素に関する評価といってもいいでしょう。
したがって、B Corpの認証を取得するということは、ESGに前向きに取り組むことであり、それを実現させている企業は、ESG投資の対象にもなります。
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取り組み事例
B Corp認証は中小企業やスタートアップが取得していることが多いのですが、中小企業に限定しているわけではありません。
ただし、多国籍企業や上場企業は、その規模が大きく複雑であるため、企業全体として認証を取得するに足る状態にあるかの判断が難しいという側面があります。
そのためB Labは大企業のための追加のベースライン要件を確立しました。*8
- 年次包括的な(GRI BIA等)のレポート報告
- 透明性のある重要性評価と利害関係者の関与過程
- 事業に関する最重要課題に関する経営戦略
- 税務・政府業務(ロビー活動等)の開示
- 人権方針
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認証取得の課題と動向
これまでみてきたように、B Corp認証取得のためのBIAは、ESGの取り組みに対する評価に直結するものです。
ただ、ESG投資の対象となるべく日本の上場企業がB Corpの取得を目指すには、BIAやインタビューがすべて英語で行われること、BIAの200以上の質問項目が北米の文化や社会背景、制度に沿ったものであることなどといった課題克服が必要です。
まだ日本では馴染みの薄いB Corp認証ですが、2023年3月には日本で活動するB Corp企業が一堂に会する参加型フェア「Meet the B」が行われ、認証取得企業同士の連帯も強まっています。
ESG投資が拡がりをみせるなか、B Corpの今後の動向にも注目しておきましょう。
*1 出所)公益財団法人 日本適合性認定協会「適合組織検索」
*2 出所)B Lab「Looking for a B Corp? 」
*3 出所)B Lab「ABOUT B LAB」
*4 出所)B Lab「Make Business a Force For Good」
*5 出所)B Lab「B Impact Assessment」
*6 出所)B Lab「ABOUT B CORP CERTIFICATION Measuring a company’s entire social and environmental impact.」
*7 出所)三菱UFJ銀行「今、注目のESG投資とは?」
*8 出所)B Lab「STANDARDS DEVELOPMENT & GOVERNANCE」
*9 出所)B Lab「Guidance on Baseline Requirements for Multinational Companies overUS$5billion」P5