- 2023.06.21
- mattoco Life編集部
いよいよ解禁された「デジタル給与」 何が便利になる?どんなメリットがある?
令和5年(2023年)4月1日に「デジタル給与」が解禁されました。一定の要件を満たすと、今後は銀行口座だけでなく、デジタルマネーで給与を受け取ることも可能です。給与のデジタル払いは、企業や従業員にとってどんなメリットがあるのでしょうか。
今回は、デジタル給与の概要や導入される理由、メリット・デメリットを解説します。
デジタル給与とは
デジタル給与とは、「●●Pay」などのスマホ決済アプリを取り扱う資金移動業者の口座で給与を受け取れる仕組みです。労働基準法では、給与は現金払いが原則ですが、労働者の同意を得た場合は銀行振込が認められてきました。*1
令和5年4月1日に「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」が施行されたことで、新たに給与のデジタル払いも認められることになりました。*2
デジタル給与が導入される理由
デジタル給与が導入される背景には、「キャッシュレス決済の普及」と「送金サービスの多様化」があります。
経済産業省が算出・公表した「2022年キャッシュレス決済比率」によると、2022年のキャッシュレス決済比率は36.0%(111兆円)です。決済額は初めて100兆円を超えました。2010年以降、日本のキャッシュレス比率および決済額は上昇傾向が続いています。*3
送金は銀行振込が一般的ですが、最近は個人間送金機能を提供するコード決済サービスがあります。アプリを通じて作成したリンクやQRコードを使い、個人間で送金を行えるのが特徴です。*4また、携帯電話番号だけで、10万円以下の個人間送金を無料で利用できるサービスも登場しています。*5
そのような中で、厚生労働省の分科会の資料によれば、キャッシュレス利用者の4分の1程度は「給与デジタル払いが可能になったら利用したい」と回答しています。*6このように、給与のデジタル払いへのニーズが一定程度見られることから、デジタル給与が認められることになりました。
デジタル給与で知っておきたいポイント
企業が給与のデジタル払いを実施するには、一定の要件を満たす必要があります。ここでは、デジタル給与で知っておきたいポイントを紹介します。
労働者への個別の同意が必要
企業がデジタル給与を導入する場合は、まず労使協定を締結しなくてはなりません。その上で、企業は一定の留意事項を労働者に説明し、個別に同意を得る必要があります。
労働者が希望しない場合は、これまでと同じように銀行口座で給与を受け取ることが可能です。また、企業が労働者に給与のデジタル払いを強制すると、労働基準法違反で罰則の対象となり得ます。*1
受取額は1日あたりの払出上限額以下
資金移動業者の口座は、「預金ではなく、送金や決済を目的としたもの」とされています。口座に資金を滞留させないために、送金や決済に利用する範囲で受取額を設定するよう求められています。
資金移動業者が1日あたりの払出上限額を設定している場合、受取額はその金額以下に設定しなくてはなりません。*1
口座上限額は100万円以下
資金移動業者の口座は、上限額が100万円以下となっています。仮に100万円を超えた場合は、あらかじめ登録された銀行口座などへ自動的に出金される仕組みです。その際、送金手数料が労働者負担となる可能性があります。*1
口座残高の現金化が可能
資金移動業者の口座残高は、ATMや銀行口座などへの出金により現金化が可能です。少なくとも毎月1回は、労働者の手数料負担なしで払い出しできます。払出方法や手数料は、資金移動業者によって異なります。*1
口座残高の払い戻し期限は少なくとも10年間
資金移動業者の口座残高は、最後の入出金日から少なくとも10年間は有効です。しばらく口座残高を利用しなくても、10年以内であれば申し出などにより払い戻しが可能です。*1
業者が破綻した場合は保証機関によって弁済される
銀行が破綻した場合は、「預金保険制度」によって一定額の預金が保護されます。しかし、資金移動業者は預金保護制度の対象外です。給与のデジタル払いが認められた資金移動業者が破綻した場合、その資金移動業者と保証委託契約等を結んだ保証機関によって、速やかに口座残高の全額が弁済される仕組みになっています。*7
不正出金された場合は一定の補償がある
資金移動業者の口座から不正出金された場合、労働者に過失がなければ損失は全額補償されます。労働者に過失がある場合は個別対応となり、状況によって補償額が変わる可能性があります。
損失発生から一定期間内に業者へ通知することが補償の要件となっている場合、少なくとも30日以上の通知期間が設定されています。不正出金の被害にあった場合は、速やかに業者に連絡することが大切です。*1
デジタル給与のメリット
デジタル給与のメリットは以下の通りです。
従業員は資金移動の手間が省ける
スマホ決済アプリを使う場合、通常は銀行口座やATMから資金移動業者の口座に入金する必要があります。デジタル給与なら、資金移動業者の口座に支払われた給与をそのまま決済や送金に使うことが可能です。
資金移動の手間が省けるので、キャッシュレス決済の利便性向上が期待できます。*8
企業はコスト削減が期待できる
企業が従業員の銀行口座に給与を支払う際は、振込手数料がかかります。資金移動業者の口座への送金手数料が安価に設定されれば、デジタル給与の導入によってコストを削減できる可能性があります。*8
デジタル給与のデメリット
前述した通り、資金移動業者の口座は、上限額が100万円以下となっています。仮に100万円を超えた場合は、あらかじめ登録された銀行口座などへ自動的に出金される仕組みです。その際、送金手数料が労働者負担となる可能性があります。*1
加えて、企業側にもデメリットが発生します。容易に想定されるデメリットとして、企業がデジタル給与を導入すると、給与支払いにかかる業務負担が増えることが挙げられます。労使協定を締結し、従業員へ留意事項を説明した上で、個々に同意を得なくてはなりません。また、従業員1名につき、銀行振込とデジタル払いの両方への対応が必要になります。
デジタル給与はいつから開始される?
給与のデジタル払いは、令和5年4月1日から資金移動業者の指定申請が可能になりました。申請受付後、厚生労働省で審査を行い、指定資金移動業者を決定します。審査は数ヵ月かかる見込みで、指定資金移動業者の一覧は厚生労働省のホームページで公表される予定です。
その後、企業がデジタル給与を導入する場合は労使協定を締結し、従業員は同意書を提出します。従業員が同意書に記載した支払開始希望時期以降に、給与のデジタル払いが可能となります。*9
まとめ
令和5年4月1日にデジタル給与は解禁されましたが、指定資金移動業者の決定には数ヵ月かかる見込みです。また、デジタル給与は強制ではなく、希望しない場合は今までと同じように銀行口座で受け取れます。今後に備えて、給与のデジタル払いについて理解を深めておきましょう。
*1 出所)厚生労働省「賃金のデジタル払いが可能になります!」
*2 出所)厚生労働省「230331(概要と経緯)資金移動業者の口座への賃金支払」
*3 出所)経済産業省「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」
*4 出所)消費者庁「キャッシュレス決済の動向整理」P9
*5 出所)三菱UFJ銀行「ことら送金とはなんですか」
*6 出所)厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について」P40
*7 出所)厚生労働省「資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書」
*8 出所)労働政策研究・研修機構「給与のデジタル振り込みを2023年4月から解禁。本人同意が条件で100万円が上限」
*9 出所)厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について(3.よくあるご質問への回答)」