健康経営の第一の目的は、社員の健康保持・増進です。しかし、健康経営の意義はそれにとどまりません。
企業戦略として考えると、組織を活性化させ、生産性向上や株価向上につながり、結果的に企業価値を高めることが期待できると、経済産業省は公表しています。
健康経営の意義と最近の動向についてみていきましょう。
健康経営の意義
経済産業省は、健康経営を以下のように定義しています。*1
では、健康経営の実践はなにをもたらすのでしょうか。
健康経営に期待できること
厚生労働省によると、企業理念に基づき従業員への健康投資を行うことによって、従業員の健康保持・増進が実現し、それが業務パフォーマンスの向上をもたらし、結果的に企業の業績や企業価値の向上につながることが期待されます(図1)。*2
出所)経済産業省「必須の企業戦略としての「健康経営」」
健康経営を実践する企業は、従業員・就職希望者の安心・信頼を得るだけでなく、ビジネスパートナーの信頼、金融機関・投資家からの信用や評価を得ることができます。
また、消費者からも信頼できる企業として認識されることによって、その企業の提供する商品・サービスを選び、自治体からの評価を得ることもできます。
出所)経済産業省「健康経営の推進について」p.35
上の図は健康経営の効果を①心身の健康関連(個人の心身の健康状態の改善による生産性の向上)、②組織(組織 の活性化)、③企業価値(企業価値の向上)の3つに分類しフロー図を整理したものです。健康意識が高まることにより企業価値が向上し、企業の持続的な成長へとつながるものと考えられます。
健康経営に取り組む企業等の傾向
令和3年度健康経営度調査の結果を簡易的に分析したところ、健康経営度の高い企業では有給取得率、有給取得日数が高い傾向が見られています。
他にも、法人単位の特定健診実施率も、健保組合平均と比べ高い傾向がありました。
(図3)。*3:p.39
出所)経済産業省「健康経営の推進について」p.39
健康銘柄2022とは、東京証券取引所と経済産業省が合同で選定し、公表される企業のことで、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む健康経営を実施する上場企業の中から、特に優れた取組を実践している企業を「健康経営銘柄」として選定しています。その目的は、健康経営に取り組む優良な法人を『見える化』することで、従業員や求職
者、関係企業や金融機関などから『従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業』として社会的に評価を受けることができる環境を整備する」ことです。
長期的な視点から企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある企業として紹介することを通じ、企業による「健康経営」の取り組みを促進することを目指しています。
第8回目となる「健康経営銘柄2022」では、32業種50社が選定されました。
また、第6回目となる「健康経営優良法人2022」では、「大規模法人部門」に2,299法人(上位法人には「ホワイト500」の冠を付加)、「中小規模法人部門」に12,255法人(上位法人には「ブライト500」の冠を付加)が認定されました。*4
「健康経営優良法人」(中小規模法人部門)の申請・認定は近年、増加しつつありますが、この認定の有無をESGの評価基準に組み入れる機関投資家もいます(図4)。
出所)経済産業省「健康経営優良法人2023 中小規模法人部門」p.3
ESG投資と健康経営
健康経営が注目されるようになってきた背景として、ESG投資が世界的に拡大していることが考えられます。
世界の投資家は、安定した投資収益を獲得するために、企業評価において、業績見通しや財務情報だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)などの非財務情報を重視する傾向が強まっています。
社会的責任に関する方針や取り組みが的確で、ガバナンス機能が高い企業への投資は、中長期的な運用収益の向上・リスク低減につながるという考え方が定着しつつあります。
健康経営・健康投資は、従業員という企業にとって重要なステイク・ホルダーへの投資でありこれらに関する情報は、ESG情報のS(社会)に位置づけられます。*5また、中長期的な観点からは、企業の人的資本である従業員の生産性向上を促す健康投資の重要性は、生産年齢人口が減少する我が国においてますます大きくなると考えられます。そのため、健康投資の取組は、ESGを重視する投資家にとって、企業が社会との関係をどのように視野に入れているかについての重要な判断要素になります。
健康経営と労働市場
健康経営は労働市場にも良い影響を与えることがわかっています。
図5は、就活生と、就職を控えた学生を持つ親に対して、健康経営の認知度や就職先に望む勤務条件などについてアンケートを実施した結果です。*3:p.52
出所)経済産業省「健康経営の推進について」p.52
図5をみると、「従業員の健康や働き方への配慮」は就活生、親ともに特に高い回答率を示しています。
また、健康経営に取り組む企業では離職率が低いことも分かっています。*3:p.38
このように、健康経営は従業員獲得や離職率低下など人材戦略的にみても有益です。
今後の方向性
最後に経済産業省が示す今後の方向性をみてみましょう。*3:p.96
- 自社従業員だけでなく、サプライチェーンや社会全体へとスコープを拡大。
- 健康経営に取り組むことが当たり前となり、評価する基準作りや質の担保を民間が主導する社会を目指す。
- 健康経営を国際的に発信し、日本企業の国際ブランドに。
これまでみてきたように健康経営は従業員の健康維持・増進および従業員満足度を実現するだけではなく、企業価値の向上にもつながる重要な企業戦略です。
今後健康経営をさらに推進するためには、経営者の意識向上と、それを後押しする施策のさらなる充実が望まれます。
※1 経済産業省「健康経営 1.健康経営とは」
※2 経済産業省「必須の企業戦略としての「健康経営」」
※3 経済産業省「健康経営の推進について」(2022年6月)
※4 経済産業省「「健康経営銘柄2022」に50社を選定しました!」
「「健康経営優良法人2022」認定法人が決定しました!」
※5 経済産業省「「健康経営銘柄2023」・「健康経営優良法人2023」の申請受付開始!」(1.健康経営への関心の高まり)< PDF>