現役ファンドマネジャーが考える、Chat GPTを含むAIの普及により恩恵が期待される米国企業とは!?

現役ファンドマネジャーが考える、Chat GPTを含むAIの普及により恩恵が期待される米国企業とは!?

※本記事は個別銘柄の推奨を目的とするものではありません。また記載内容については作成日時点の内容です。

2022年末から、世界中でAIについての関心が高まっています。その中でも、特に注目が集まっているのが、Chat GPTという存在です。下図は、赤線が検索キーワード「AI」、青線が「Chat GPT」の検索トレンドです。このように話題を集めるChat GPTですが、既に企業でも実務で活用するケースが出始めています。
そこで本記事では、NASDAQ市場に上場する株式に投資する弊社ファンドマネジャーへの取材をもとに、足元のアップデート情報も踏まえて、Chat GPTの基本、現状の課題、既存企業に与える影響についてまとめました。

図1 Google Trend
(期間:2022年10月1日~2023年4月26日、赤線:AI、青線:Chat GPT)

Chat GPTの基本について

Chat GPTとは?

Chat GPTとは、Open AI社が開発したAIのモデルのことです。もう少し詳しく言うと、Open AI社が自然言語処理の技術であるGPTをベースとした大規模な言語モデルのことです。その“GPT”とは「Generative Pre-trained Transformer」の略で、Chat GPTによると、「Generative Pre-trained Transformer」は事前学習済みの言語生成モデルと説明しています。

それでは、なぜChat GPTへの関心が高まっているのでしょうか?

それは、性能の高さや回答のナチュラルさが劇的に過去のAIから改善されたためです。

また、今までのAIモデルでは、最新のモデルが欧米で導入され、日本などで公開されるのに数か月のタイムラグがありましたが、Chat GPTは最新モデルが全世界でタイムラグなく公開されたのが特徴です。Chat GPTの発表後2カ月でアクティブユーザー数が1億人に到達しました。これは、1億人のユーザー数達成までに、TikTokが約9カ月、Instagramが2年半※1かかったという事実からも、相当なスピードでユーザー数が拡大したことがわかります。

今までのAIとの違いは?

これまでのAIとの違いは、一言でいうと、今までのAIモデルよりも、各段に賢くなったということです。Chat GPTではパラメータ数(人間の脳に該当)が飛躍的に増加したため、処理できるデータ量が増え、処理可能な内容(=演算処理件数)が増加したといえます。言語モデルのパラメータ数の推移をみても、飛躍的に進歩しています。過去数年で、パラメータ数は毎年5~10倍増加(=処理能力が5~10倍アップ)しているといわれています。

米Open AI社とは?

Open AI社とは、未上場のスタートアップ企業であり、生成AIの分野で評価が高い会社の一つです。生成AIとは、人の指示にしたがって文章や画像、動画を自動生成する人工知能(AI)のことです。2022年以降、高精度で簡単に使えるサービスが続々と登場しており、人間が行う仕事を代替したり短時間でコンテンツを量産したり、企業活動や人々の生活を大きく変革する可能性がある技術だと考えられています。その技術を評価して、米マイクロソフト社は2019年にOpen AI社に10億ドル(約1300億円)投資しました。また、2023年1月に3回目※2の追加出資を行っています。これは足元、生成AI分野の企業群の中ではOpen AI社が、市場の中で高く評価されている結果だと考えられています。

急激にAIが発展した理由は?

さて、ここまでAIが急激に発展してきたという事実をお伝えしてきましたが、なぜここまで短期間で成長してきたのでしょうか。その背景には、2017年Googleが発表した「Attention is All you need」※3という論文で紹介された「Transformer」というモデルの革新的な技術があると言われています。また、Transformerモデルに加えて、大量のデータを処理できるGPUというチップの進歩、大量のデータを蓄積するデータセンターの普及も、AIの急成長を支えているといえます。※4このようにAIの成長を支えているTransformerモデルですが、会議の発言をリアルタイムでテキストに変換することが可能です。つまり、すでに私達も会議システムなどで恩恵を受けていますし、その他にも、画像認識による異常検知、不正行為の防止や、ビデオやイメージなどの作成などに利用されています。また、AIを活用することで、人が1時間以上かかっていた作業が1分程度に短縮されたり、本物と見間違えるような架空のアイドルを生成することも可能です。

生成AIの領域では、Chat GPTが業界標準?課題とは?

生成AIは発展が期待される分野でありますが、まだ始まったばかりです。具体的には、アメリカの大手IT企業(グーグルやメタなど)や中国大手IT企業(テンセント、アリババ、バイドゥなど)が、積極的に取り組んでいますが、現時点ではChat GPTが一歩リードしているようにみえます。

一方で、現状、生成AIの課題は、3つあります。
1つ目は、個人データや機密情報の漏洩です。Chat GPTなどを活用することで、個人情報、自社の戦略、研究開発情報など、機密情報が漏洩するリスクあります。一部企業では情報漏洩リスクなどを鑑み、社内での使用を禁止している企業があります。

2つ目は、誤った回答を出力してしまうことがある点です。AIは、過去のデータなどを元に推論し、「正しいであろう選択肢を選んでいる」だけです。したがって、事実に基づきながら偽の情報、コンプライアンスやモラルに反した結果を作成することがあります。

さて、そこで、Chat GPTに「資産運用とは」と聞いてみました。その回答は以下です。

「資産運用とは、投資や貯蓄など、自身が持つ資産を有効に活用して、将来的な収益を得ることを指します。一般的に、資産運用は長期的な視点で考えられ、自己の資産に対して適切なリスク管理を行いながら、収益を最大化することが目的とされます。
資産運用の方法は、株式や債券などの金融商品に投資すること、不動産を取得して賃貸収入を得ること、定期預金や投資信託などの金融商品に資産を配分することなどがあります。また、自己のスキルや知識を活かして起業することや、副業を始めることも資産運用の一つとして考えられます。
資産運用にはリスクが伴いますが、リスクを適切に管理し、適切な投資先を選ぶことで、将来の資産形成や収益の増加を目指すことができます。」

上記については、資産運用という概念的なものの回答としては、広義かつ網羅的な回答となっています。しかしながら、投資を前提に尋ねることが多い資産運用の回答としては、一般的ではないと感じる点(例えばスキルを磨く、副業を始める等)があるのも事実です。

では、ここで来年の制度改正を控えて注目されている「NISAとは」と聞いてみました。

「NISAは、Nippon Individual Savings Account(日本個人型確定拠出年金)の略称で、個人が自由に選んだ金融商品に投資することで、将来の年金受給資金を築くための制度です。
NISAは、2014年1月から導入された制度で、最大120万円までの投資額に対して、非課税で運用益を受け取ることができます。また、特定口座として開設することで、所得税や住民税の控除の対象にもなるため、税金面でも優遇されています。
NISA口座で取り扱える金融商品には、株式や債券、投資信託、ETF(上場投資信託)などがあります。投資対象となる金融商品は、NISA口座でのみ運用することができます。
NISAは、長期的な資産形成や資産運用に適した制度であり、将来の年金受給資金の増加につながる可能性があります。ただし、投資はリスクが伴うため、適切なリスク管理を行い、自己責任で行うことが重要です。」

よく読むと、何点か誤りを含む文章があります。お分かりになりますでしょうか。まず、NISAは「日本個人型確定拠出年金」ではなく、「少額投資非課税制度」と訳されます。個人型確定拠出年金は、iDeCo(イデコ)と呼ばれるものです。また、「年金受給資金を築くための制度」という記載も、年金に引っ張られているように思います。中段の「特定口座」という表現も、税制優遇を受けられるのは「NISA口座」なので誤りです。さらには、投資対象の金融商品がNISAでのみ運用できるという点も誤りです。

このように細かく誤りがありますし、参照データ時点の関係から来年度の新NISAについては言及されていません。そういった点は予め割り引いて使用する必要がありそうです。

3つ目は、Open AI社が Chat GPT を用いてお金を稼ぐ仕組みを確立していないことです。多くのユーザーがChat GPTを利用するためには、 Open AI社はサーバなどの多額のインフラ投資が必要です。Chat GPTは有料のプランも発表しましたが、インフラ投資を支えるには不十分であり、今後も安定的に成長していくために、発展していくために必要なコストや維持するコストを上回る収益を稼ぐ仕組みの確立が必要不可欠となります。

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生成AI(Chat GPT)を含むAIの普及により、恩恵が期待される企業とは?

この章では、弊社ファンドマネジャーへの取材中の様子とともに、生成AIについて米国企業がどのように考えているのか、そして生成AIがNASDAQ市場に上場している企業に恩恵を与える企業について解説します。

※下記は個別銘柄の推奨を目的とするものではありません。また下記の内容については作成日時点の内容です。

編集部 まず、米国企業はChat GPTについてどのように考えているのでしょうか?

ファンドマネジャー 米国企業は、AI(生成AI含む)に関しては、積極的に活用していく方針で、当面は従業員がより付加価値の高い業務に時間を割けるような環境を整備していくために、AIを利用していくものだと思われます。それは、米国企業訪問時の取材の中で、企業担当者が「AI活用により業務の効率化を通じたコスト削減も可能だが、重要なのは自社製品やサービスの付加価値を向上し、売上を成長させるのに活用していきたい」と述べていたことからもわかります。このように、今後は米国を中心にAIを活用する動きは活発化していくものと思います。

編集部 なるほど、活用について具体的な事例はありますか?

ファンドマネジャー 2023年5月、アメリカのIT大手、MICROSOFTは、「Chat GPT」の技術を活用したネット検索エンジンの一般公開を開始したと発表しました。検索エンジンへの活用を発表した2023年2月の段階では、会社が許可した一部の人の利用に限っていました。しかし今回は、検索エンジンに作成したい画像について文章で指示すると、AIが自動的に画像を作成する画像生成AIの技術も搭載することなども発表しています。このサービスが本格的に稼働し始めると、ネット検索の分野では、これまでグーグル社が90%以上という圧倒的なシェアを握ってきましたが、その構図が大きく変わる可能性もあると考えられます。

編集部 なるほど、MICROSOFTも実用化に向けて動き始めているのは、大きな変化の兆しかもしれませんね。それでは、生成AIが与える企業への影響を教えてください。

ファンドマネジャー  はい、それでは①自社製品にAIを活用 ②インフラ構築にAIを活用という2つの軸で整理して解説します。まずは、①自社製品にAIを活用する企業についてです。「Cadence」という半導体の設計(EDA)ツールの大手企業です。この会社は、半導体設計を設計する際に利用するソフトウェアを提供しています。半導体チップの設計が複雑化する中で、効率的に開発できるAIを利用したソフトウェアを提供しています。半導体の需要が拡大、そして設計が複雑化する中で、この製品の需要がさらに高まることが期待されています。また、22年4Q決算資料によると、半導体チップ(CPU)のテストでは、 AI利用で効率が大幅に改善していると発表しています。

編集部 なるほど。AIを活用することで、ソフトウェアの効率化も進みそうですね。その他にもありますか?

ファンドマネジャー「Intuitive Surgical (手術支援ロボット製造会社)」です。両社ともに、AIの活用を通じて、自社の製品の競争力を高めていく方針です。具体的には、Intuitive Surgicalにおいても、次世代の製品ではAIおよびビックデータを活用し、ユーザーである医者がさらに安全な手術ができるような製品を開発しています。

編集部 医療の事例は面白いですね。AIを活用しつつ、最終的には人に寄り添うサービスの高度化に繋がっていきそうですね。それでは、②AIインフラ構築に活用、はいかがでしょうか?

ファンドマネジャー はい、「NVIDIA」です。金融サービス業界へのAI導入に向け、ドイツ銀行とNVIDIAは協業を進める方針です。※5NVIDIAは、「AIを活用したいものの、AIをどのように活用してよいのか、不明である企業が大多数」とメッセージを出しており、そこで、NVIDIAが蓄積してきたAI分野の知見を活かし、顧客が直面している問題を解消するソリューションを提供していく方針です。また今回の協業では、まず不正金融取引検知システムや銀行プロセス自動化(業務の自動化)などのサービスを提供していくことが想定されています。そこで、GPU(画像処理などに適したチップ)の開発に注力しており、非常に生成AIの活用に積極的です。生成AIでは、大量のデータをもとに学習することが必要です。巨大なデータ処理の際、GPUが使用されるのが現在のスタンダード。そこでNVIDIAは、GPUの市場で圧倒的なシェアを有しており、NVIDIAはその市場の恩恵を受けることが期待されています。

編集部 半導体の分野でも活用できると思うと、応用範囲は本当に広そうですね。

ファンドマネジャー はい、その他にも「LAM(半導体製造装置メーカー)」という会社もあります。生成AIを含むAI利用の拡大が半導体市場の成長を牽引する見通しです。その結果、半導体市場の拡大により、半導体製造装置の需要が拡大することが期待されています。

編集部 ありがとうございました。本記事で紹介する生成AIという技術が、様々な産業に活用されることで、更なる技術発展が期待できそうですね。

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AI活用の巧拙が競争を勝ち抜く重要なファクターに

いかがでしたでしょうか?今回は、生成AIの中でも、注目が集まっているChat GPTを中心に解説してきました。まだ、回答が不正確なことがあることや、収益を稼ぐ仕組みが確立されていないなど、改善が必要な部分が多々あることは否定できません。
 しかし、NASDAQなど米国市場に上場する多くの企業は、自社製品の競争力向上、業務の効率化を進めるために、積極的にAIを活用していく見通しです。取材の中で、ファンドマネジャーが「そう遠くない将来に、AI活用の巧拙が厳しい競争を勝ちぬく重要なファクターになる日が到来する可能性があると考えている」と話していた姿が印象的でした。引き続き、mattoco life 編集部でもAIについては機会があれば取り上げていきたいと思います。

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金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第404号/一般社団法人投資信託協会会員/一般社団法人日本投資顧問業協会会員

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