金融教育義務化...現場はどう教える?子どもたちの反応は?

金融教育義務化...現場はどう教える?子どもたちの反応は?

子どもたちへの新たな金融教育が2020年度から段階的に始まり、現在は小学校、中学、高校で金融教育が行われています
また、2022年4月からは成人年齢が引き下げられ、18歳から親の同意なく一人でクレジットカードの作成などの契約ができるようになりました。

このような状況下で課題になっているのが、金融教育を担当する教員の負担増と教員本来の専門性から外れた金融知識の不足です。
知識の習得のため金融庁や証券取引所、民間の金融機関などが金融教育のサポートをしています。

それはどのようなものでしょうか。
サポートの必要性を押さえた上で、現在行われている取り組みを紹介します。

金融教育をサポートする必要性

まず、金融教育のサポートがなぜ必要なのか、その背景をみていきましょう。

金融教育の実施

最初に、金融教育の定義を押さえておきましょう。
金融広報中央委員会は金融教育を以下のように定義しています。

「お金や金融のはたらきを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」*1

「学習指導要領」は、文部科学省が定める教育課程(カリキュラム)の基準で、全国どこの学校でも、学習指導要領に基づいて教育課程(カリキュラム)が編成されます。*2
この学習指導要領は約10年ごとに改訂されますが、金融教育を含んだ新たな指導要領が、2020年度から小学校で、2021年度から中学校で、2022年度からは高等学校で順次実施されています。

金融教育の学習内容は以下のとおりです。*3

  • 社会(公民的分野):金融の仕組みや働き、起業、経済活動や起業などを支える金融などの働き
  • 技術・家庭(家庭分野):消費者の基本的な権利と責任、計画的な金銭管理の必要性や売買契約の仕組み

この他、中学校学習指導要領総則には、教科等横断的な視点に立って現代的な諸課題に対応するための資質・能力を育成していくことが示され、そこには金融も含まれます。

金融教育に取り組む教師の意識

では、金融教育に携わる教員の意識はどのようなものでしょうか。
「金融経済教育を推進する研究会」が2022年に中学校教員を対象に行った大規模な実態調査の結果をみていきましょう。

■金融教育の必要性
まず、金融教育の必要性については、アンケートに回答した全教員の90.3%が必要であると答えていますが、特に割合が高かったのは、大学時代の専攻が経営学部系と政治学部系で、94%近くに上ります。*3:p.18

■教えるのが難しい・生徒が理解しにくい内容
教員は、どのような内容を「教えるのが難しい」あるいは「生徒にとって理解が難しい」と考えているのでしょうか。

まず、消費生活に関する分野についてみてみましょう(図1)。*3:p.39

図1 教えるのが難しい、あるいは生徒が理解しにくい内容 [消費生活に関する分野]

出所)金融経済教育を推進する研究会「中学校(教員・生徒)における 金融経済教育の実態調査報告書調査報告書」p.39

図1をみると、「クレジットカードによる支払いと三者間契約」が47.8%で最も割合が高く、次いで、「消費者トラブルの防ぎ方と消費者保護」、「消費生活と契約」となっています。

このうち、「消費者トラブルの防ぎ方と消費者保護」は同調査の「重要である・優先して教えるべき内容」のランキングでも、「授業で重点的に取り扱った内容」でも最も割合が高く、それぞれ78.6%、72.4%に上っています。*3:p.34, p.29

また、「消費生活と契約」は「重要である・優先して教えるべき内容」のランキング上位第3位で50.2%、「授業で重点的に取り扱った内容」では上位第2位で54.1%に上っています。

折しも2022年度からは、成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳から単独で有効な契約ができるようになりました。また、18歳になると、保護者の同意を得ずに締結した契約を取り消すことができなくなることから、自立した消費者を育むための学習も必要になっています。*2

その重要性について教員も十分承知しているものの、3分の1強の教員が「教えるのが難しい、あるいは生徒が理解しにくい」と感じていることがわかります。

次に、金融・経済に関する分野について、教師が「教えるのが難しい」あるいは「生徒にとって理解が難しい」と考えている内容をみていきましょう(図2)。*3:p.42

図2 教えるのが難しい、あるいは生徒が理解しにくい内容 [金融・経済に関する分野]

出所)金融経済教育を推進する研究会「中学校(教員・生徒)における 金融経済教育の実態調査報告書調査報告書」p.42

図2をみると、「フィンテックと呼ばれる革新的な金融サービス」が49.5%で最も割合が高く、次いで「起業を行うことの必要性や起業を支える金融の働き」、「企業会計の意味、会計情報の活用」となっていますが、これらは今回の指導要領で新たに設けられた内容です。

ちなみに、これらはすべて、「重要である・優先して教えるべき内容」のランキングでも、「授業で重点的に取り扱った内容」のランキングでも下位に位置し、「フィンテックと呼ばれる革新的な金融サービス」はそれぞれ3.1%と2.1%、「起業を行うことの必要性や起業を支える金融の働き」は10.0%と5.8%、「企業会計の意味、会計情報の活用」は1%と0.5%と極端に低い割合を示しています。*3:p.36, p.31

以上のことから、指導要領に新たに設けられた学習事項について教員はその重要性をあまり感じておらず、「教えるのが難しい、あるいは生徒が理解しにくい」と考えており、授業でも重点的に取り扱っていないことがわかります。

金融経済教育を授業で扱う際に難しいこと

では、教員は金融教育を授業で扱う際に何を難しいと感じているのでしょうか(図3)。*3:p.45

図3 金融教育を授業で扱う際に難しいこと

出所)金融経済教育を推進する研究会「中学校(教員・生徒)における 金融経済教育の実態調査報告書調査報告書」p.45

「教える側の専門知識が不足している」が49.0%で最も割合が高く、次いで「生徒にとって理解が難しい」、「現実経済の変動が複雑すぎる」、「授業時間数が足りない」となっています。

以上のことから、金融教育を教える教員の負担は重く、サポートが必要なことがわかります。

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金融教育のサポート

ここでは金融教育のサポートについてみていきます。

金融庁「中学生・高校生のみなさんへ」

金融庁は「中学生・高校生のみなさんへ」というサイトで、中学生・高校生向けの金融経済教育指導教材や金融経済教育シミュレーター、契約の知恵、パーソナル・ファイナンス、リスク教育副教材など、さまざまなコンテンツを紹介しています。*4

また、同サイトの「先生・保護者・教育関係のみなさんへ」では、講師派遣の案内、高校向
け金融経済教育指導教材、教員向け解説動画、授業で使える教材、金銭教育教材、消費者教育教材などが紹介されています。

これらのコンテンツは、金融庁や日本銀行、金融広報中央委員会、日本証券業協会、日本損害保険協会、生命保険協会、東京都消費者生活総合センターなど、さまざまな機関・組織によって提供されています。

金融広報中央委員会「知るぽると」

金融広報中央委員会は、都道府県金融広報委員会、政府、日本銀行、地方公共団体、民間団体などと協力して、中立・公正な立場から、暮らしに身近な金融に関する幅広い広報活動を行っています。*5-1

そのサイト「知るぽると」の「教育関係の方へ」のページでは、金融教育について、授業の進め方・実践事例、教材・指導書、イベント・セミナー、作文・小論文コンクール、データ・資料集・用語解説などのコンテンツを提供しています。*5-2

その中の「教材・指導書」にはさまざまな教材が紹介されていますが、そのうち、「『これであなたもひとり立ち』電子教材(指導者用)CD-ROM」をみてみましょう。*5-3
この教材には、次のような特徴があります。

  • 進学にかかる費用、消費者トラブルなどさまざまなテーマに対応
  • 生徒が短い時間で効率的に学習するための工夫が満載
  • 指導例や参考資料を収録しており、指導者の負担を軽減
  • パワーポイント教材は、指導目的や授業の進行等に合わせ、構成などを自由に変更可能
図4 「『これであなたもひとり立ち』電子教材(指導者用)CD-ROM」の内容例

出所)金融広報中央委員会「『これであなたもひとり立ち』電子教材(指導者用)CD-ROM

東京証券取引所・大阪取引所「JPXマネ部!ラボ」

東京証券取引所と大阪取引所は、2022年4月に金融経済教育の新ブランド「JPXマネ部!ラボ」のポータルサイトを設置し、小中高生から社会人まであらゆる世代を対象とした5つの「マネ部!」が、各種金融経済教育を展開しています(図5)。*6:p.1, p.3

図5 「JPX マネ部!ラボ」と5つの「マネ部!」の活動イメージ

出所)株式会社 東京証券取引所、株式会社 大阪取引所「日本取引所グループ リリース 総合金融経済教育ポータルサイト~「JPX マネ部!ラボ」サイト~の開設について」p.3

このサイトでは、以下のようなニーズに応え、さまざまな情報にアクセスすることができます。*6:p.1

  • ランキングをもとに、今どんなテーマが注目されているのか知りたい
  • セミナー・イベントや、企業・学校への講師派遣サービスを申し込みたい
  • 動画の中から、興味のあるテーマを選択して学習したい
  • 学生、教職員、社会人といった自身の属性から関連サイトを閲覧したい

また、サイトデザインもどの世代にとっても親しみやすいものになっています(図6)。*6:p.2

図6 「JPX マネ部!ラボ」のデザイン

出所)株式会社 東京証券取引所、株式会社 大阪取引所「日本取引所グループ リリース 総合金融経済教育ポータルサイト~「JPX マネ部!ラボ」サイト~の開設について」p.2

民間の金融機関によるサポート

民間の金融機関も金融教育活動に取り組んでいます。

たとえば、三菱UFJフィナンシャル・グループは総合金融グループならではの強みを生かし、地域貢献活動の一環として、以下のようなさまざまなサービスを提供しています。*7

  • 職場体験学習と出前授業
  • 小学生向けプログラム「お金の力-VALUE-」
  • 中学・高校生向けプログラム「教室で体験するインターンシップ『株の力』」
  • 大学向けプログラム「株の力for大学生」

この中から、中学・高校生向けプログラム「教室で体験するインターンシップ『株の力』」をみてみましょう。

このプログラムは三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社が「株式会社教育と探求社」と共同で開発した独自の金融経済プログラムで、経済産業省が主催する平成30年度第9回「キャリア教育アワード」の「大企業の部 奨励賞」を受賞しました。

プログラムが始まったのは2014年で、これまでに受講した中学生・高校生は、延べ65校、4,500人を超えます。*8

このプログラムに参加した生徒たちは、同社のインターンになったつもりで課題に取り組みます。
授業はグループワーク形式の全5回で、「株」の仕組みや機能について、クイズやゲームなどのアクティビティに取り組みながら体験的に学びます。
そして、その成果を株の力を伝える新聞広告として表現します(図7)。

図7 「教室で体験するインターンシップ『株の力』」によって産み出された作品例

出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社「金融経済教育『株の力』

優秀チームは本社に招かれ、社長をはじめとする同社役員の前でプレゼンテーションを行います。参加した役員は、経営者の視点から株式投資の意義やプレゼンテーションに対するコメントを行い、次世代を担う学生に熱いメッセージを送ります。

プログラムを受講した生徒たちからは「株への興味が湧いた」「起業してみたくなった」などの感想がきかれました。
また導入校の教師からは「生徒が社会に目を向けるきっかけになった」「授業では取り扱わない金融機能を学ぶ貴重な機会だった」といったコメントが寄せられているということです。

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おわりに

お金は私たちの生活には欠かせないものですが、お金に関する意思決定を適切に行うためにはそのための知識とスキルが必要です。
その重要性が認識されるようになり、小・中・高校で金融教育が行われていますが、金融教育を担う教員にとっては負担が重く、サポートが必要です。

本記事でご紹介したように、現在、さまざまな金融関係機関・組織がそのために多彩なサービスを提供しています。
それらにアクセスしてみると、思わぬ発見があるかもしれません。

*1 出所)金融広報中央委員会(2021)「金融教育プログラム 学校における金融教育の年齢層別目標【改訂版】」p.1

*2 出所)政府広報オンライン「2020年度、子供の学びが進化します!新しい学習指導要領、スタート!

*3 出所)金融経済教育を推進する研究会「中学校(教員・生徒)における 金融経済教育の実態調査報告書調査報告書」(2022年10月)p.18, p.39, p.34, p.29, p.42, p.36, p.31, p.45

*4 出所)金融庁「中学生・高校生のみなさんへ

*5 出所)金融広報中央委員会「暮らしに役立つ身近なお金の知恵・知識情報サイト 知るぽると」
5-1「知るぽるとについて
5-2「教育関係の方へ
5-3「『これであなたもひとり立ち』電子教材(指導者用)CD-ROM

*6 出所)株式会社 東京証券取引所、株式会社 大阪取引所「日本取引所グループ リリース 総合金融経済教育ポータルサイト~「JPX マネ部!ラボ」サイト~の開設について」(2022年10月4日)p.1, p.3, p.2

*7 出所)MUFG 三菱UFJフィナンシャル・グループ「金融経済教育

*8 出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社「金融経済教育『株の力』

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三菱UFJ国際投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第404号/一般社団法人投資信託協会会員/一般社団法人日本投資顧問業協会会員

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