仮想空間で「アバター」を操作して人と交流したり買い物ができたりする「メタバース」について、社会実装に向けた試みが各所で進んでいます。
メタバースというとゲームやエンターテインメントを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
将来的には小売や教育などさまざまな領域での活用が想定されているほか、社会問題の解決にも繋がることが期待されています。
注目の技術はどのように展開していき、市場は今後どのような伸びを見せるのでしょうか。
メタバースの体験や認知度
さて、「メタバース」とひとくちに言っても、産業的には様々な技術から成り立っています。
IBMはレポートの中で、「メタバース」をこのように定義しています。
- AR(Augmented Reality:現実世界へデジタル情報を付加する技術)
- MR(Mixed Reality:現実世界とデジタル仮想空間を相互に影響させる技術)
- VR(Virtual Reality:デジタル仮想空間を現実世界であるかのように疑似体験する技術)
といった XR 系の 3D 空間技術を、インターネット技術と組み合わせることで生み出される仮想世界や仮想空間の総称
引用)IBM「過剰な期待に沸くメタバース市場、その先にある真のポテンシャルとは?」p2
「AR」「VR」という言葉は以前から話題になっていますが、上記のような「MR」という技術もメタバースには含まれます。
他にも、「空間」を再現しようとすると通信量も増えますので、通信や半導体産業なども無縁ではありません。
裾野の広い世界と言えます。
「メタバース」や「AR」「VR」といったメタバースを構成する技術関係の用語ついて、IBMのレポートによると認知度は以下のようになっています。(図1)
図1 メタバースの認知度
出所)IBM「過剰な期待に沸くメタバース市場、その先にある真のポテンシャルとは?」p3
このように、「どんなものか理解している」と回答した割合について、VR は 4 割を超えるものの、メタバースと AR/MR については 2 割程度にとどまっていることがわかります。一般的に広く理解されているという状況にはまだ少し遠い技術ですが、メタバース市場の今後の成長はどのように予想されるのでしょうか。
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メタバース市場は2030年までには劇的な伸び
メタバース市場については、劇的な伸びが予測されています。
総務省の令和4年版情報通信白書では、メタバースの世界市場は2021年に388.5億ドルだったものが、2030年には6,788億ドルまで拡大するとの予想が紹介されています。(図2)
<世界のメタバース市場規模(売上高)の推移及び予測>
図2 メタバースの世界市場規模予測
出所)総務省「令和4年版 情報通信白書」
なお、三菱総合研究所は、メタバースの活躍が期待される領域を下図のように想定しています。(図3)
図3 メタバースの応用領域
出所)三菱総合研究所「2030年代、メタバースの産業利用が社会課題を解決」
メタバースは一般的に想像されるようなメディアやエンターテインメントへの活用だけなく、教育や小売り等、活用できる領域は多岐にわたると考えられています。メタバース経済圏は2030年代中頃から後半以後に、情報通信・処理インフラの発展とともに発展し、最終的には数十億人を超えるユーザーを持つ巨大な市場が新たに形成されると期待されているのです。
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メタバース活用の具体的事例
メタバースを活用する具体的な事例については、総務省が以下のようなシーンを示しています。(図4、5)
図4、5 メタバースの利活用事例
出所)「『Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会』事務局資料」 p7,9
新型コロナウイルス感染症の流行も背景に、メタバースへの注目度はさらに大きなものになっています。実際に、音楽のライブ配信などさまざまなイベントがバーチャル化され開催されています。
また、介護や看護、マッサージのように直接肉体に触れる必要性が高い分野は現時点で対象ではないものの、接客業、特に窓口案内業務やレストランのサービスで、OJT(職場内訓練)にメタバースを取り入れる試みがなされています。*1
人手不足の解消に繋がることも期待されます。
メタバース空間での商業
また、海外では具体的なビジネスに発展しています。個人間の商取引を可能にしている世界もあります。
その一例がDecentralandというメタバースプラットフォームです。*2
ここでは、個人が自由に街や店といった施設を作ることができ、他のユーザーがアバターで好きな場所に参加できるという仕組みになっています。
それだけではなく、仮想空間内の「土地」を売買できるようにもなっているのです。
メタバース空間にも「利便性の高い土地」が存在し、それを売買できるというしくみです。
現実空間と同様の商取引が成立しているのです。
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社会問題の解決にも期待
また、障がいを持つ人にもメリットがもたらされるという期待もあります。
発達障がい者の支援をしている発達支援研究所の倉橋所長は、メタバースについてこのように述べています。
(中略)
ユニバースの世界では一律に「障がい者」とみなされた人は,その世界では別に障がい者ではなくなります。障がいの概念も,「その人の特性」という見方ではなく,「ある世界との相性の悪さ」の問題という見方にシフトしていくでしょう。そして同じ人が「Aの世界では障がい状態」だが「Bの世界ではエリート」みたいなことも,現在の世界をはるかに超えるレベルで普通に起こっていくことになります。
引用)発達障害支援サイト はつけんラボ「メタバースと発達障がい(2)多様化する基準の世界」
さらに体に不自由があるために遠出ができない人もメタバースを通じて観光やショッピングができます。セクシャルマイノリティの人が、自分らしい性別で活動することもできるようになります。
メタバースの用途は様々です。
関連業界がこれからどのようなイノベーションを見せ、社会にどのような変革をもたらしていくのか、今後の動向に注目してみるのはいかがでしょうか。
*1 産業技術総合研究所「メタバースとは?科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由」