従業員持株会はどんな仕組み?加入前にメリット・デメリット、税金について知っておこう

従業員持株会はどんな仕組み?加入前にメリット・デメリット、税金について知っておこう

上場会社やその関連会社では、福利厚生制度の一つとして「従業員持株会」を導入していることがあります。勤務先に従業員持株会がある場合は、資産形成の手段として活用できます。ただし、従業員持株会にはデメリットもあるため、加入前に特徴を理解しておくことが大切です。

今回は、従業員持株会の仕組みやメリット・デメリット、税金について解説します。

従業員持株会とは

従業員持株会とは、従業員が給与天引きで自社(勤務先)の株式を取得できる制度です。従業員の中長期的な資産形成を支援する目的で、多くの上場企業やその関連会社において福利厚生制度の一つとして導入されています。*1

従業員持株会を通して自社株式を取得することで、通常の株式投資と同じように配当金や譲渡益(売却益)が期待できます。また、会社から「奨励金」が支給された場合、通常の購入よりも多くの株式を得られるのも魅力です。

従業員持株会は民法で定める組合に該当し、会員や理事長、事務局などで構成されています。*2

会員は従業員持株会に加入する従業員であり、理事長は持株会を代表して規約で定める業務を執行する者です。事務局は持株会の運営を行う機関ですが、計算や書類作成といった事務作業については証券会社などの金融機関が代行するのが一般的です。

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従業員持株会の現状

東京証券取引所の調査によると、2021年3月末現在、国内の上場会社3,752社のうち、大手証券会社5社のいずれかと事務委託契約を締結して従業員持株制度を有する会社は3,239社(86.3%)です。上場企業全体の約9割が従業員持株会制度を導入しています。

従業員持株会の加入者1人あたりの平均保有額は223.8万円(前年度比53.3万円の増加)、平均保有単元数は10.55単元(前年度比0.14単元の減少)です。

また、制度導入企業の96.5%にあたる3,127社で奨励金が支給し制度を推進しています。奨励金額※の平均支給額は88.45円(前年度比1.22円の増加)です。奨励金額は「100円以上150円未満」が1,225社(37.8%)で最も多く、次いで「40円以上60円未満」の1,162社(35.9%)となっています。*3

※奨励金額とは、買付手数料や事務委託手数料に対する補助を除き、拠出金1,000円につき会社から加入者に支給される金額です。

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従業員持株会のメリット

従業員が従業員持株会に加入するメリットは以下の通りです。

給与天引きで自社株式が購入できる

従業員持株会は、一度加入手続きをすれば、給与天引きで自動的に自社株式を購入してくれます。自分で買い時を判断する必要がなく、手間がかからないため、忙しい人や時間がない人でも資産形成に取り組みやすいでしょう。

また、購入タイミングを分散することによって、高値での購入を防ぐ効果も期待できます。

配当金や譲渡益が期待できる

従業員持株会で自社株式を購入すると、保有株数に応じて配当金を受け取れます。また、株価が値上がりしたタイミングで売却することによって譲渡益を得ることも可能です。

なお、従業員持株会で取得した自社株式の配当金は自動的に再投資され、現金では受け取れないケースが一般的です。

会社から奨励金が支給される

従業員持株会を導入している企業の多くは、会員である従業員に対して奨励金を支給しています。自社株式を購入する際に、会社が購入金額の一定割合を上乗せしてくれるため、自身の出資金額よりも多くの株式を取得できます。

先述した東京証券取引所の調査結果によれば、奨励金の平均は拠出金1000円につき8%~9%程度です。*3
仮に毎月10,000円を購入の場合、奨励金が8%なら800円(10,000円×8%)が上乗せされ、毎月10,800円分の自社株式を購入できます。

導入企業のメリット

勤務先の業績が向上して株価が上昇すれば、従業員持株会で取得した自社株式の時価も上昇します。勤務先の成長・発展が従業員の利益に直結するため、勤労意欲の向上につながります。

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従業員持株会のデメリット・注意点

一方で、従業員持株会には以下のようなデメリットや注意点もあります。

元本保証ではない

従業員持株会で購入する自社株式は、通常の株式投資と同じく元本保証ではありません。株価が上昇すれば利益を得られますが、株価が下落して損失が生じるリスクもあります。また、保有中は定期的に配当金を受け取れますが、業績によっては配当が出ない可能性もあります。

リスクが集中しやすい

従業員持株会は、リスクが集中しやすいのもデメリットです。給与の受け取り先と投資先が同じであるため、勤務先への依存度が増し、リスクが集中してしまいます。万一、勤務先が倒産するようなことがあれば、収入と保有資産(自社株式)を同時に失うかもしれません。

従業員持株会を利用する場合は、自社株式以外の資産・銘柄にも分散投資を行う等、リスク軽減を図ることが大切です。

通常の株式投資に比べて売却に時間がかかる

従業員持株会を通して取得した自社株式は、理事長名義で保管されています。売却には一定の手続きが必要になるため、通常の株式投資より売却完了までに時間がかかります。急にまとまったお金が必要になっても、すぐに現金化できない点に注意が必要です。

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従業員持株会の課税関係

従業員持株会では「奨励金」「配当金」「譲渡益」の3つが課税対象となり、それぞれ税務上の取扱いが異なります。ここでは、従業員持株会の課税関係について解説します。

奨励金(給与所得)

会社から支給される奨励金は「給与所得」として課税されます。毎月支給される奨励金は給与に、年1回支給される奨励金は賞与に加算して源泉徴収されます。*4
年末調整で課税関係が終了するため、原則として確定申告は不要です。

配当金(配当所得)

従業員持株会で取得した自社株式は理事長名義で保管されているため、配当金は理事長あてに一括で支払われます。ただし、実際には株式の持分に応じて各会員に支払われるため、各会員個人に対する「配当所得」として課税されます。*4

上場株式等の配当金は、支払いの際に20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金が源泉徴収されるため、基本的に確定申告は不要です。ただし、確定申告をして配当控除を利用することも可能です。*5

譲渡益(譲渡所得)

従業員持株会で取得した自社株式を売却し、譲渡益が生じた場合は「譲渡所得(申告分離課税)」として課税されます。*4

上場株式等の譲渡所得には20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。*6

持株会から個人の「特定口座(源泉徴収あり)」に引き出して売却すれば、所得税や住民税が源泉徴収されるため、確定申告は不要となります。
持株会で有する自社株式を個人の証券口座に引き出すだけであれば課税関係は生じません。

譲渡損失が生じた場合は、確定申告をするとその損失を翌年以後3年間にわたって繰り越し、上場株式等に係る譲渡所得や配当所得の金額から控除できます。*7

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まとめ

従業員持株会は勤務先から奨励金が支給され、自身の投資金額より多くの株式を取得できるのが魅力です。一方で、勤務先への依存度が高まり、リスクが集中してしまうデメリットもあります。従業員持株会を利用して資産形成に取り組む場合は、様々なリスクを想定しバランスの取れた投資を行うことが重要です。

*1 出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券「従業員持株会の制度導入・運営支援業務

*2 出所)日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」P4

*3 出所)東京証券取引所「2020年度従業員持株会状況調査結果の概要について

*4 出所)日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」P17~18

*5 出所)国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)

*6 出所)国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)

*7 出所)国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除

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