ポイント
男女とも仕事と育児を両立できる環境を整備するために、2021年6月に育児・介護休業法の改正が行われました。本法律の改正によって、男性の育児休業はどのように変わるのでしょうか。育児休業の取得を希望するなら、改正内容について理解しておくことが大切です。
今回は、男性の育児休業の現状や制度改正の内容、休業中にもらえる給付金について詳しく解説します。
男性の育児休業取得の現状
厚生労働省の調査によると、2020年度の男性の育児休業取得率は12.65%です。2019年度の7.48%から大きく上昇し、過去最高となりました。
それに対して、女性は81.6%です。2007年以降は80%以上で推移しており、男女差はまだ大きいのが現状です。それでも、男性の育休取得率は上昇傾向にあります。*1
育児休業を希望していたが、実際には利用しなかった男性社員の割合は37.5%です。利用しなかった理由をみると、「育児休業制度が整備されていなかった」「収入を減らしたくなかった」「育児休業を取得しづらい雰囲気があった」の割合が2割を超えています。*2
厚生労働省は、男性の育児休業取得率を2025年に30%まで引き上げることを目標に掲げています。*3
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育児・介護休業法の改正で男性の育児休業はどう変わる?
出産・育児による離職を防ぎ、男女ともに仕事と育児を両立できるよう、2021年6月に育児・介護休業法が改正されました。2022年4月1日から段階的に施行される予定です。ここでは、改正のポイントを確認していきましょう。*4
雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化(2022年4月1日施行)
育児休業を取得しやすい雇用環境を整備するため、事業主は育児休業・産後パパ育休(詳細は後述)に関して、以下いずれかの措置を講じることが義務化されます。
- 研修の実施
- 相談窓口の設置
- 自社労働者の育休取得事例の収集・提供
- 自社労働者へ育休制度と取得促進に関する方針の周知
また、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に対して、事業主は必要事項の周知と育児休業の取得意向の確認を個別に行う必要があります。その際、取得を控えさせるような形での個別周知・意向確認は認められません。
有期雇用労働者の育児休業取得条件の緩和(2022年4月1日施行)
有期雇用労働者が育児休業の取得を希望する場合、現行制度では以下2つの要件を満たす必要があります。
- 引き続き雇用された期間が1年以上
- 子が1歳6ヵ月になるまでの間に契約満了となることが明らかでない
2022年4月1日からは上記1の要件が撤廃され、2のみとなります。基本的には無期雇用労働者と同様の取り扱いになりますが、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は「労使協定の締結により除外可」となっている点に注意が必要です。
産後パパ育休の創設、育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)
新たに「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、通常の育児休業は分割取得が可能となります。現行制度との比較表は以下の通りです。
出所)厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」を参考に作成
今回の改正で創設された「産後パパ育休」は、通常の育児休業とは別に取得できるのがポイントです。子の出生後8週間以内で4週間まで取得できます。一度に4週間ではなく、分割して2回取得することも可能です。
たとえば、出生時や退院時に1回目を取得し、少し仕事に復帰した後に2回目を取得するといった使い方ができます。通常の育児休業は就業不可ですが、労使協定を締結している場合に限り、休業中の就業が認められます。
通常の育児休業については、現行制度は分割取得が原則不可となっています。出生時に「パパ休暇」を取得した場合は、育児休業の再取得は可能です。しかし、子が1歳になる前に仕事に復帰すると、その後の再取得はできません。
今回の改正では、通常の育児休業も2回の分割取得が可能となるため、状況に合わせて柔軟に育休を取得できます。たとえば、1回目の育休を取得して仕事に戻った後、パートナーの職場復帰や保育園の入所準備のタイミングで再度育休を取得するといった使い方ができます。
また、保育所に入所できない等の理由で育児休業を1歳以降に延長する場合、現行制度では育休開始日が「1歳」と「1歳半」の2つに限定されています。そのため、各期間の開始時点でしかパートナーとの育休の入れ替わりができません。
改正後は育休開始日が柔軟化されるため、いつでもパートナーとの育休の入れ替わりが可能となります。
育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月1日施行)
従業員数1,000人超の企業については、育児休業の取得状況を年1回公表することが義務付けられます。公表内容には、男性の「育児休業等の取得率」が含まれる予定です。
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男性の育児休業中にもらえる給付金
男性が育児休業取得を検討する場合は、経済的な不安を感じるのではないでしょうか。
育児休業中は、育児休業開始から6ヵ月までは休業開始前賃金の67%相当額、それ以降は50%相当額が支給されます。
育児休業給付は非課税で、所得税及び復興特別所得税、住民税はかかりません。また、育児休業期間中は社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)が免除されます。
これらを考慮すると、育児休業開始から6ヵ月までは、休業前の手取り賃金の約8割程度が支給されることになります。*5
就業時に比べて収入は減るものの、育児休業中も一定の収入を確保できます。
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国や企業による男性の育児参加への取り組み
国は男性の育児参加を支援するために「イクメンプロジェクト」を発足し、Webやイベントを通して情報発信を行っています。その活動の一環として、男性の育児と仕事の両立を積極的に推進する企業を「イクメン推進企業」として表彰しています(イクメン企業アワード)。
ここで、イクメン企業アワード2020受賞企業の取り組みを一部紹介します。*6ある企業は、2018年度まで在籍男性社員の育休取得率は0%でした。しかし、社内プロジェクトチームを組織し、「アンケートでの課題の分析」「取得対象社員とその上司への育児説明会の開催」などに取り組んだ結果、2019年度には30%に大きく上昇しました。
また、テレワークの活用や男性の育児参画を促すマネジメント研修、ライフイベントに合わせた柔軟な勤務制度の導入などにより、仕事と育児の両立に向けたキャリア支援を行っている企業もあります。
このように、男性社員の育児参加への取り組みに注力する企業が増えています。
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男性の育児休業取得が認められない場合の対処法
男性が育児休業を取得しづらい雰囲気の職場で、上司に相談しても認められない場合はどうすればよいのでしょうか。
上司の理解が得られない場合は、人事部などの担当者に相談して、上司を説得してもらう方法が考えられます。もし育児休業を取得した社員がいれば、どのように上司を説得したか相談してもいいでしょう。
育児休業の取得は労働者の権利であるため、基本的に会社は取得を拒否・制限できません。不当な扱いを受けた場合は、各都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)へ相談し、行政指導などの対応をしてもらうことも可能です。*7
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まとめ
男性の育児休業取得は、「子育てに参加したい」という男性の希望を実現すると同時に、パートナーである女性に偏りがちな育児・家事の負担軽減、キャリア継続支援につながります。育児休業中は給付金を受け取れるため、仕事を休んでも一定の収入を確保できます。
現行の育児休業制度や改正内容を理解し、夫婦で話し合った上で、男性も育児休業の取得を検討しましょう。
*1 出所)厚生労働省「令和2年(2020年)度雇用均等基本調査 事業所調査 結果概要」P17~18
*2 出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成30年度仕事と育児等の両⽴に関する実態把握のための調査研究事業 労働者調査 結果の概要」P20~21
*3 出所)イクメンプロジェクト(厚生労働省)「イクメンプロジェクト趣旨」
*4 出所)厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
*5 出所)厚生労働省「育児休業や介護休業をする方を経済的に支援します」P2
*6 出所)厚生労働省「イクメン企業アワード2020 受賞企業の取組事例集」P6、P13
*7 出所)イクメンプロジェクト(厚生労働省)「育児休業等についてよくある質問(お勤めの方)」