日本ではなぜ老舗が育つ?「VUCAの時代」に活かすべき教訓とは

日本ではなぜ老舗が育つ?「VUCAの時代」に活かすべき教訓とは

日本には長寿企業が多い。そのことは、統計上、証明されています。戦禍や金融・経済危機、パンデミックや災害など、幾多の困難を乗り越え、脈々と受け継がれてきた老舗企業。その強靭さは一体どこにあるのでしょうか。

現在は「VUCAの時代」―Volatility (変動性)・Uncertainty (不確実)・Complexity (複雑性)・Ambiguity (曖昧性) が飛躍的に高まり*1、先行き不透明で、将来予測が困難な状況です。
こうした時代にあって、老舗企業から学ぶべき教訓とはなにか、探ってみましょう。

日本は「世界の長寿企業ランキング」1位

まず、日本には長寿企業が多いことを示す調査結果からみていきます。

日本の長寿企業ランキング

ある調査によると、2019年における業歴100年以上の長寿企業は、全国に3万3,259 社あり、企業全体に占める割合は 2.27%だったと推計されています。そのうち、上場企業は 532社でした。*2:p.2

表1 業種別 長寿企業ランキング

出所)帝国データバンク(2019)「『老舗企業』の実態調査(2019 年)」 p.2


業種の区分別にみると、長寿企業の社数が最も多かったのは「製造業」で構成比 25.1%、次いで「小売業」 23.4%、「卸売業」 22.1%と続き、これらの3業種で長寿企業全体の約7割を占めています(表1・左表)。

次に、業種を細分化してみると(表1・右表)、ランキングのトップは「貸事務所」です。この業種は、創業時は別事業を主業としていた企業が多いのが特徴です。そうした企業が所有する土地にオフィスビルなどを建て、賃料収入が増加したため、貸事務所業へと業種転換したケースが目立ちます。ランキング2位は「清酒製造」。清酒の起源は古く、数世紀にわたって定着している産業のひとつです。その他、「旅館・ホテル」や「酒小売」、「呉服・服地小売」など、BtoC関連の業種が上位を占めています

次に年商規模別のランキングをみてみましょう(表2)。

表2 年商規模別 長寿企業ランキング

出所)帝国データバンク(2019)「『老舗企業』の実態調査(2019 年)」 p.3


年商規模別にみると、老舗企業全体の中で最も企業数が多かったのは「1 億円未満」で41.5%、次いで「1 億~10 億円未満」の39.0%で、この2つの規模で8割に達します。*2:p.3
一方、企業規模別に老舗企業出現率をみると、「1 億円未満」ではわずか1.69%なのに対して、「500 億円以上」では15.05%と、年商規模が大きい企業では老舗企業の出現率が高いことがわかります。

長寿企業の国別ランキング

次に、世界に目を向けてみましょう。
長寿企業の国別ランキングで、日本は何位にランクインしているのでしょうか。*3

表3 長寿企業の国別ランキング 創業100年企業(左表)・創業200年企業(右表)

出所)日経BPコンサルティング・周年事業ラボ(2020)「世界の長寿企業ランキング、創業100年、200年の企業数で日本が1位


まず、創業100年以上の企業をみてみましょう(表3・左表)。世界で最も100年企業が多いのは日本で、世界の創業100年以上企業の41.3%を占めています。2位の米国が24.4%であることから、その割合の高さがわかります。

さらに創業200年企業のランキング(表3・右表)でも日本は1位で、世界の創業200年以上企業の実に65.0%に及んでいます。2位は100年企業同様、米国ですが、その割合は11.6%で、日本との差は実に53.4%に上ります。日本は世界的にみて、際立って長寿企業が多い国なのです。

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老舗企業の特徴とは

日本に老舗企業が多いのはなぜでしょうか。ここではその特徴をみていきましょう。

危機管理意識の高さ

老舗企業の特徴としてまず挙げられるのは、危機管理意識が高いことです。長寿企業はBCP 策定率が高いことが判明しています。*2:p.4

BCP(Business Continuity Plan)は以下のように定義づけられています。*4

企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画

長年の間には、さまざまな危機が訪れますが、老舗企業は「備えあれば憂いなし」という基本を守っているのです。

日本最古の企業・金剛組の歴史と理念

次に、日本最古の企業といわれる金剛組の歴史と理念から、長寿の秘密を探ってみましょう。

金剛組は、飛鳥時代の西暦578年、聖徳太子が百済から招いた3人の工匠のうちの1人が創業した企業で、主に社寺建築を手掛けています。*5-1創業者は日本初の官寺である四天王寺の建立に関わり、金剛組はそれ以降、江戸時代まで四天王寺お抱えの宮大工でした。

しかし、1,400年にわたるその歴史は、苦難の連続。1576年の石山寺の戦い、1614の大阪冬の陣で四天王寺は消失し、金剛組はその度に再建を請け負っています。*6

図1 四天王寺元和再建伽藍(大阪冬の陣の後の再建)

出所)四天王寺「四天王寺の歴史


明治に入ってからは、神仏分離令が出され、その余波を受けて、四天王寺は寺領も禄も失いました。そのため、金剛組はそれ以降、他の寺社にも進出することを余儀なくされます。

昭和に入ってからも苦難は続きました。第37代の当主が無類の職人気質で営業活動に無関心だったため経営が傾き、それを悔いて命を絶ってしまったのです。1932年(昭和7年)のことでした。

絶体絶命のピンチを切り抜けたのは、当主の妻でした。彼女は歴代初の女棟梁として第38代を継ぎ、東奔西走して苦境を乗り切ったのです。伝統的な産業や職業では、女性の立ち入りを禁じる、いわゆる「女人禁制」を貫くものが少なくありませんが、この出来事はジェンダ的観点からみても画期的です。

第二次世界大戦のさなかにあっては、軍事用の木箱製造でなんとかもちこたえました。戦後は経営の近代化を図り、一般建築も手がけるようになります。時代のニーズに応じて、鉄筋コンクリート工法による寺社建築にいち早く着手し、鉄筋コンクリート工法でも、日本建築本来の優美さや、木のあたたかみを損なわない、独自の工法を開発しました。

このように幾多の困難に見舞われながらも、時代の波をくぐり抜け、これまで事業を続けてこられたのはなぜでしょうか。

同社の理念にその秘密を探ってみましょう。*5-2

  • 永い歴史の中で常に心に刻んできたのは、先駆者たる自覚に基づいた伝統の技術を、後世に伝えるという使命感です。
  • 常にお客様から求められる存在でありたい、金剛組に頼んでよかったと感じていただきたい、そのような気持ちが社寺建築一筋に1400年余続いた原動力となっています。
  • これからも伝統を重んじつつ、あたらしい技術を常に追求するリーディングカンパニーでありたいと願っています。

ここにみられるのは、伝統を継承していく使命感、顧客ニーズに真摯応えようとする姿勢、伝統を重んじつつも新しい技術を目指す追求心、の3点です。

また、社寺に関わる事業であることから、その理念には、日本人の血肉ともいえる、歴史的文化的背景が反映していることも見逃せません。

老舗業種・清酒製造業にみられる特徴

清酒製造業は、冒頭でみたように、「長寿企業ランキング」の第2位にランクインし、日本に古くから定着している老舗業種です。

実は、筆者の実家は江戸時代から続く造り酒屋ですが、清酒製造業の特徴は上でみた金剛組の特徴と驚くほど似通っています。そこで、その一端をご紹介したいと思います。

米から造る日本酒の起源には諸説ありますが、紀元前300年から200年にルーツがあるともいわれています。*7濁り酒ではない「清酒」の発祥は奈良の正暦寺だといわれていますが、室町時代の嘉吉年間(1441~1444年)頃には盛んに清酒が製造されるようになっていたことが、文献に記されています。*8

造り酒屋は神社とも深いつながりがあります。実家の敷地内にも酒の神様と呼ばれる「松尾神社」*9が祀られていて、ささやかな祠(ほこら)ではありますが、杜氏が中心となって折々に神事が行われています。

図2 「酒造神」松尾大社に奉納された全国の清酒菰樽(こもだる)

出所)松尾大社「歴史・由緒


では、清酒業は順風満帆かというと、そうとはいえません。近年、日本酒の国内出荷量は、他のアルコール飲料との競合などにより減少傾向にあるのです(図3)。

図3 日本酒の国内出荷量の推移

出所)農林水産省 政策統括官(2021)「日本酒をめぐる状況」p.2

では、輸出量・輸出金額はどうでしょうか(図4)。

図4 日本酒の輸出量・金額の推移

出所)農林水産省 政策統括官(2021)「日本酒をめぐる状況」p.3

輸出量はコロナ禍の影響で2020年には落ち込みましたが、輸出金額は順調な伸びを示し、今後も輸出の増加が期待されています*10:p.3

実家は田舎の小さな酒蔵で、主な販売地域は地元周辺ですが、9.11テロ以前はニューヨークの鮨店にも出荷していました。

顧客は何代にもわたる贔屓が多いため、昔ながらの味を維持していますが、それと同時に、味覚の流行や好みにも対応すべく、多様な商品を展開しています。

さらに、近年は、酒造りの最高責任者である杜氏の担い手にも変化が訪れています

酒造りの技術はかつては蔵人(くらびと)の経験と勘に支えられていましたが、最近は大学や大学院で酒造りを科学的に学んだ世代が育っています。

また、杜氏は近世以来、男性の仕事でしたが、最近は女性の杜氏も増えつつあります
2020年、女性杜氏の1人が英国BBC放送の「100人の女性」に選ばれ、話題を呼びました。「100人の女性」は、人々に感動や影響を与えた世界各国の女性を選ぶもので、かつて女人禁制とされていた酒蔵で、伝統を引き継ぎ活躍する様子が評価されたものです。*11
実家でも大学院で清酒製造について学んだ筆者の姪が、現在杜氏を務めています。

このように、清酒製造業は、歴史的・文化的背景や顧客ニーズの尊重、時代の流れや状況に合わせて柔軟に変容し活路を見出している点など、その特徴が金剛組と驚くほど一致しているのです。

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重要なのは、「伝統継承・柔軟性」

多くの企業が時代の波やさまざまな困難にのみ込まれる中、長年にわたって経営を維持してきた老舗企業。その強靭さの秘密は、危機管理意識を高く持ち、顧客ニーズに真摯に向き合い、伝統継承に強い使命感を抱きながらも柔軟に時代の流れに対応しようとする姿勢にあるといっていいでしょう。

一言でいえば、老舗企業は、企業経営の基本を愚直に守りつつ、変容を受け入れる柔軟性をも備えているということです。

世界の中でも際立って老舗企業が多い日本には、もともとそうした風土があるはずです。
不安定で先行き不透明なVUCAの時代の企業にとって、老舗企業のあり方は有益なヒントとなるに違いありません。

*1 経済産業省「越境学習によるVUCA時代の企業人材育成

*2 出所)帝国データバンク(2019)「『老舗企業』の実態調査(2019年)

*3 出所)日経BPコンサルティング・周年事業ラボ(2020)「世界の長寿企業ランキング、創業100年、200年の企業数で日本が1位

*4 出所)中小企業庁「BCP策定運用指針

*5-1 参考)金剛組「我々の歴史

*5-2 参考)金剛組「理念

*6 出所)四天王寺「四天王寺の歴史

*7 参考)日本酒造組合中央会「日本酒とは>日本酒の歴史

*8 参考)奈良県歴史文化資源データベース「清酒発祥の地 正暦寺

*9 出所)松尾大社「歴史・由緒

*10 出所)農林水産省 政策統括官(2021)「日本酒をめぐる状況

*11 参考)JIJI.COM(2020)「『100人の女性』に日本酒職人 ワクチン開発科学者も―英BBC

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