フリーランスという新しい働き方に注目が集まっています。
それはなぜでしょうか。そもそもフリーランスとはどのような働き方なのでしょうか。
フリーランス人口は? 収入は? そして、メリットと課題にはどのようなものがあるのか、順番に確認していきましょう。
フリーランスとは
定義
「フリーランス」は法令上の用語ではないため、一律した定義はありません。
例えば、2021年3月に策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」では、以下のように定義しています*1:p.2。
図1:フリーランスの働き方
出所)厚生労働省(2018)「プロフェッショナルな働き方・フリーランス白書 2018」p.5
フリーランスは図1のように、独立系フリーランスと副業系フリーランスに分けられます。
これらの違いは、雇用関係があるかどうかです。
企業や組織に属さず雇用関係を持たないのが独立系フリーランスです。
一方、基本的に企業や組織に雇用され、すきま時間を使って個人の名前で仕事をしているのが副業系フリーランスです。
ただし、上記の定義によれば、図1中の「経営者」が従業員を雇用している場合にはフリーランスではないことになりますが、本稿でもその定義に従い、雇人のいる経営者はフリーランスに含めないことにします。
人口
では、フリーランスはどのくらいいるのでしょうか。
2020年に行われた内閣官房「フリーランスの実態調査結果」によると、フリーランスは462万人います*2:p.25。
このうち、図1の「独立系フリーランス」にあたるのが214万人、「副業系フリーランス」が248万人です。
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フリーランスの収入
収入はどのくらいでしょうか。
図2:独立系フリーランスの年収:主たる生計者
出所)内閣官房(2020)日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」p.6
図2の赤線は、独立系フリーランスのうち「主たる生計者」(世帯の中で最も所得が高い人)の年収を表しています。
ここでの「年収」とは事業としての収入(売上高)ではありません。フリーランスは個人事業主なので、仕事にかかった費用を経費として計上できるという税務メリットがあります。
ここでの年収は、「収入から必要な経費等を差し引いた所得の額で、社会保険料と税金を差し引く前の額」です。
図2をみると、独立系フリーランスのうち、主たる生計者の年収は、200万円以上300万円未満が19%と最も多く、雇用者(ブルーの点線)の年収と同程度であることがわかります。
図3:フリーランスの年収:主たる生計者以外の本業/副業
出所)内閣官房(2020)日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」p.7
次に、主たる生計者以外の独立系フリーランス(ブルーの線)や、副業系フリーランスの場合(オレンジの線)は、年収100万円未満が最も多く、前者は47%、後者は74%に上ります(図3)。
先ほどの図2と擦り合わせてみると、主たる生計者か否か、あるいは独立系か副業系かによって収入には大きな差があることがわかります。
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フリーランスのメリットと課題
ここでは、フリーランスのメリットと課題について、上述の「フリーランス実態調査結果」を基にみていきます。
メリット
まず、フリーランスという働き方を選択するのはなぜでしょうか。
フリーランスを選択した理由として最も割合が高かったのは、「自分の仕事のスタイルで働きたいため」で57.8%、次いで「働く時間や場所を自由とするため」39.7%でした。
このことから、フリーランスの魅力は自由で柔軟な、自分らしい働き方ができる点にあることがわかります。
では、フリーランスの満足度はどの程度でしょうか(図4)。
図4:フリーランスという働き方の満足度
出所)内閣官房(2020)日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」p.4
70%以上の人が「仕事上の人間関係」「働く時間や場所など」「プライベートとの両立」「達成感や充足感」に満足していると回答しています。
これらがフリーランスのメリットといっていいでしょう。
こうした働き方を今後も続けたいと答えたフリーランスは78.3%に上ります*2:p.10。
ただし、フリーランスは事業主であり、基本的には事業リスクを負う責任と覚悟を持った「自律的な働き方」をしている人々です。
自由で柔軟な働き方の裏にあるこうした側面を認識し、自己マネジメントを怠らず、常に能力を高め専門性を磨いていく努力も必要です。
課題
次に、フリーランスの主な課題は以下の2点です。
まず、ひとつ目の課題は収入です。
先ほどの図4から、収入に満足しているフリーランスは37.4%に留まっていることがわかります。また、フリーランスとして働く上での障壁として「収入が少ない・安定しない」と回答した人は59%に上ります*2:p.5。
フリーランスは所得が安定していないため、クレジットカードを作ったり、マイホームや車のローンを組んだりする際に不利になるケースも少なくありません*3。
2つ目の課題は取引先とのトラブルです。
取引先とのトラブルを経験したフリーランスは37.7%に上ります*2:p.17。
トラブルの内容をみてみましょう(図5)。
図5:取引先とのトラブル内容
出所)内閣官房(2020)日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」p.19
取引先とのトラブルの内容として最も割合が高いのは、「発注の時点で、報酬や業務の内容などが明示されなかった」で37%、次いで「報酬の支払が遅れた・期日に支払われなかった」が28.8%です。
ところが、トラブルを経験したフリーランスのうち、交渉せずに受け入れた人が21.3%、交渉せずに自分から取引を中止した人が10%、合わせて30%あまりとなっています*2:p.20。
その理由として、
「受け入れないと、今後、取引が打ち切られたり、減らされたりすることとなり、フリーランスの活動に大きな支障を来すため」
「受け入れないとその取引が成立しなくなり、フリーランスの活動に大きな支障を来すため」
という回答がそれぞれ41.2%、27.3%でした*2:p.21。
以上のことから、弱い立場に置かれているフリーランスの状況がみてとれます。
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今後の展望
以上のような課題解決に向けて、政府はフリーランスへの保護・支援を本格的に拡大させようとしています。
まず、コロナ禍での対応をみてみましょう*4。
2020年度2次補正予算では「持続化給付金」の対象に、事業所得として確定申告をしているフリーランス以外にも、フリーライターや非常勤講師、ミュージシャンなどまでも含め、前年よりも売上げが半減した月があるフリーランスに、最大100万円が給付されることになりました。
また、2021年3月には 内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が「定義」のところでふれた「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しました。
フリーランスの中には、労働者に近い働き方をしている人々もいます。それにも拘わらず事業主は「労働者」ではないため、フリーランスは基本的に労働関係法令の保護を受けることができず、さまざまな問題が生じていました。
そこで、このガイドラインでは、事業主であるフリーランスに企業に適用される独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法を適用して取引先の企業とのトラブルを取り締まることが記されています。
また、それと同時に、労働者に近い働き方をしているフリーランスには労働者に適用される労働関係法を適用して保護することも明記されています*1:p.2。
さらに、民間レベルでの支援サービスやビジネスも広がりつつあります*4。
フリーランスが賃貸住宅にスムーズに入居できるようにするためのサービスや、その日のうちに報酬を受け取ることができるフリーランス向けの先払いサービスを提供する企業も出てきています。
現在は多様で柔軟な働き方が求められる時代です。
IoTやAIなどによる技術革新と少子高齢化は日本社会にさまざまな変革を生じさせています。
こうした時代にあって、フリーランスは、人材確保と生産性の向上を同時に実現する、柔軟な働き方のひとつとして注目されています。
コロナ禍での働き方がこうした流れを加速させ、政府や民間企業の後押しを受けて、フリーランスが活躍する基盤が現在固まりつつあります。
*1 出所)内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省(2021) 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2021年3月26日)
*2 出所)内閣官房(2020)日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」(2020年5月)
*3 出所)野村総合研究所(2021)木村登英「コロナ下での新たな働き方の広がり:副業とフリーランスが生産性向上に」(2021年2月17日)
*4 出所)野村総合研究所(2020)木村登英「コロナ問題は公的支援拡充を伴いフリーランス増大の原動力に」(2020年7月2日)