生命は存在するのか?かつて存在していたのか?水は存在するのか?人類が住むことはできるのか?
火星について現在、世界中の研究機関や企業が「移住」に向けたチャレンジを繰り広げています。
火星にはこれまでに世界から探査機が送られ、画像などを通じて火星の地表の様子が伝えられてきました。
そして2020年7月にはNASAの新しい火星探査機「マーズ2020」が打ち上げられました。2021年の2月に火星に到着し、生命の痕跡を探す調査を開始します。
世界が注目するこれらの研究の最終目的は「人類の火星移住」で、2030年代には火星に人類を着陸させるというロードマップも出来上がっています。
世界はなぜ火星を目指すのでしょうか。
2020年代に始まる火星開発競争
火星は太陽系惑星の中でも、最も関心を持って研究されている特別な存在です。
米ソ冷戦中の1960年代には両国による火星探査競争が始まり、多くの探査機が打ち上げられましたが、そのほとんどは失敗に終わりました。
その後1964年にアメリカのマリナー4号が初めて火星への接近に成功し、撮影に成功しました。以降、火星周回軌道からの観測が続けられ、火星表面の様子が明らかになっていきます。
初めて火星に探査機上陸を成功させたのは1976年、アメリカのバイキング1号、2号計画です。そこからNASAは継続的に火星探査機を打ち上げています。
2012年に上陸した火星探査車「キュリオシティ」は、現在も火星表面の画像を地球に送り続けています(図1)。
2019年10月に、NASAはキュリオシティが火星で古代のオアシスを発見したと発表しています*1。
図1 火星探査車「キュリオシティ」©︎NASA
また、2012年にはインドの火星探査機「マンガルヤーン」が打ち上げに成功したほか、UAEの火星探査機「ホープ(アラビア語ではアルアマル)」が2020年7月に、日本の種子島宇宙センターから打ち上げられました*2。
その他にも、2020年代は世界中で一気に火星探査が始まります。火星探査を支える月面基地計画も含めると、予定されているミッションは以下のようなものです(図2)。
図2 世界の火星探査計画(出所:「宇宙開発の未来年表」寺門和夫著p4~7より抜粋)を基に三菱UFJ国際投信作成
ところで、数多くある惑星の中で、世界の研究機関はなぜ「火星」にこだわるのでしょうか。
もちろん地球の隣であるという事情はありますが、「人類滅亡の危機に備えて」火星移住を本気で考えているのです。いくつかの理由があります。
- 約6500万年前の巨大隕石衝突で、恐竜を含む地球上の75%の生命が絶滅したことがある*3
- 太陽は膨張を続けていていずれ地球を飲み込んでしまう*4
- 他の惑星よりも距離が近い
- 自転周期がほぼ地球と同じで昼夜があり、太陽光を受けられる
- 地下深くには氷の存在が確認されており、水と太陽光があれば理論的には光合成が可能
などが挙げられるでしょう。
また、感染症や核戦争、氷河期など、地球が災難に見舞われることは他にもありそうです。
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民間参入で盛り上がる火星ビジネス
NASAは月および火星探査のパートナーとして、多くのアメリカ民間企業を採用することを表明しています。
2020年に発表されたのは、ロッキードマーチン、システム設計会社のインテュイティブマシーン、打ち上げ会社のULA(United Launch Alliance)、そしてスペースXなどです*5。
また、日本がドイツ、フランスなどとともに計画している「MMX」は、火星本体ではなく火星の外側を回る衛星に探査機を到達させることを計画しています。
そしてその地表サンプルを採取し、火星にいかに水がもたらされたかなどについての観測を予定していますが、このプロジェクトには多くの日本企業が参加しています(図3)。
図3 火星衛星探査「MMX」プロジェクト実施体制(出所:「火星衛星探査計画(MMX)プロジェクト移行審査の結果について」JAXA p26)
現在のところはまず、「いかにして火星の環境を解明し、人類が移住できる環境作りを開発するか」に世界が注力しています。
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移住だけでない惑星探査の魅力
実は、火星をはじめとする惑星の探査には、「移住」だけでないもうひとつの側面があると考えられます。資源の存在です。
レアメタルなどの資源開発をめぐる競争は、すでに激しいものになっています。
地球の様々な資源枯渇や開発に伴う環境破壊が進む中、惑星探査は地球外に採掘場所を求めようとする試みでもあります。
NASAによると、地球の近くには現在1万8,000個を超える*6「地球近傍天体(NEO)」が見つかっています(図4)。
これらのNEOは地球に衝突する危険性がある一方で、レアメタルやロケット燃料に利用できる水資源が埋蔵されていると言われています*7。
図4 地球近傍天体のイメージ ©︎NASA/JPL-Daltech
この資源に着目するベンチャー企業も世界には現れつつあり、商業活動の可能性を探っています。
宇宙空間の利用については「宇宙条約」で宇宙活動の自由、宇宙の領有権禁止、宇宙の平和利用、国への責任の一元集中などが国際ルールとして決められていますが、領有権を主張しない経済活動については明確なルールはありません。
アメリカはすでに、月にある非生物資源の商業利用について、アメリカが負う国際的な義務に抵触せずに獲得した場合は、資源の占有、輸送、利用、販売を認めています*8。
国際宇宙法学会(IISL)も、宇宙条約は天体を国家が所有することは禁じているものの、資源の採掘は認められる、という立場を取っています*9。
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まとめ
火星は地球に「似ている」とはいえ、大気は非常に薄く平均気温はマイナス55℃、季節によってはマイナス130℃からプラス30℃まで大きく変化するという環境は、今のところ決して住み心地の良いところとは言えないようです。
そして地球との位置関係などから、火星までの往復には3年間かかると言われています *10。
しかし人類が到達するのがそう遠い将来でなくなりました。
今後は実際に滞在できる環境を作るため、住宅や素材、食品といった分野にも火星ビジネスが広がっていくことでしょう。
また、月を含む宇宙資源の開発、商用利用については何らかのルール策定も望まれます。
地球の外に出てまで人類が争いを繰り広げるような事態だけは、あってはなりません。
*1 出所)「NASA's Curiosity Rover Finds an Ancient Oasis on Mars」NASA、2019年10月
*2 出所)「UAEの火星探査機、種子島から打ち上げ成功 アラブ諸国初」BBCニュース
*3 出所)「NEO Basics」NASA
*4 出所)「Our Sun」NASA
*5 出所)「NASA Announces Partners to Advance ‘Tipping Point’ Technologies for the Moon, Mars」NASA、2020年10月
*6 出所)「Twenty Years of Tracking Near-Earth Objects」NASA、2018年7月
*7、8、9 出所)「宇宙資源探査に関する SJAC 提言(案)」文部科学省資料 p4-5
*10 出所)「有人火星探査の実現のために」JAXA