パートで働くときに多くの人が気にする「収入の壁」。
103万円や130万円という金額はよく聞きますが、最近では150万円や106万円等々、他の金額を示して言うことも多くなっています。
「○○万円の壁」を考える際は、「税金を払うかどうか」や「配偶者の扶養に入るかどうか」といったことだけを意識する人も多いかも知れません。
しかしもう一歩踏み込んで、壁の影響で変わる世帯所得(手取り)や長期的なライフプランを考えながら、良い壁を意識することが大切です。
本原稿では、数ある収入の壁のうち、パートで働く人が特に抑えておきたい3つの壁について説明していきます。
パート収入の壁、こんなにたくさん増えている
税制改正や、パートやアルバイトなど短時間で働く人の社会保険の適用範囲の広がりなどで、パートで働く人のいわゆる収入の壁が増えています。
103万円、106万円、130万円、150万円……と色々聞くけどよくわからないという人もいるのではないでしょうか。
それぞれの「○○万円の壁」とは何の壁か見ていきましょう。
100万円の壁*1
パートで働く人に「住民税(所得割部分)」がかかるかどうかのライン。
年収100万円を越えれば住民税(所得割部分)がかかり、給料から差し引かれます。
103万円の壁*2
パートで働く人に「所得税」がかかるかどうかのライン。年収103万円を越えれば所得税がかかり、給料から差し引かれます。
また、配偶者にとっては「配偶者控除」を受けることができるラインでもあります。
106万円の壁*3
パート先が大企業などの場合、自分自身で社会保険(健康保険・年金)に加入するかどうかのライン。
雇用期間や労働時間などの要件もありますが、年収106万以上になれば自分で社会保険に加入することになり、給料から社会保険料が差し引かれます。
130万円の壁*4
会社員などの配偶者の社会保険(健康保険・年金)の扶養に入れるかどうかのライン。
年収130万以上になれば配偶者の社会保険(健康保険・年金)の扶養から外れ、自分で社会保険に加入しなければなりません。
150万円の壁*2
配偶者が「配偶者特別控除」の満額(38万円)を受けられるかどうかのライン。
年収150万円を超えると、配偶者特別控除の額が減額されます。
201万円の壁*2
配偶者が「配偶者特別控除」を受けられるかどうかのライン。
パートで働く人、扶養する配偶者それぞれの年収により控除額は1万円~36万円の範囲で変わりますが、パート労働者の年収が201万6,000円を越えると配偶者特別控除が受けられなくなってしまいます。
一般的に収入の壁と言われる6つの壁を簡単に紹介しましたが、ざっくり言うと、「税金の壁」と「社会保険の壁」の2つに大別されます。
どれを基準に収入制限するのが良いかは家庭の事情によって異なりますが、特に意識しておきたい3つの壁をこれから見ていきましょう。
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1つ目の壁:106万円
106万円は、いわゆる大企業などでパートで働く人が社会保険(健康保険・年金)に加入することになるかどうかという壁でした。
そもそも正社員でなくても週30時間以上働く人は、年収に関係なく社会保険に加入しなくてはならないという決まりがあります。
しかし、それに加えて、次の4つの要件すべてを満たすと労働時間が週30時間未満でも自分で社会保険に加入しなければなりません。
- 週当たりの労働時間が20時間以上
- 月額賃金8万8,000円以上(年収換算106万円以上)
- 雇用期間の見込みが1年以上
- 次のどちらかの事業所で働いている人
i)従業員数が500人超の会社
ii)従業員数が500人以下で、かつ社会保険に加入することを労使間で合意がされている会社
自分で社会保険に加入すれば、病気で仕事を休んだときの保障や老後の年金など、様々なメリットがあります。
しかし、健康保険料および厚生年金保険料が給料から引かれるため、その分手取り給与が少なくなります。
仮に月給88,000円だとすると、健康保険料と厚生年金保険料を合わせて月12,394円(協会けんぽ(東京)、40歳未満の場合)。*5
手取り給与は月額7万5,600円程度。
実際には税金がかからないライン(年収103万円)を越えているため所得税・住民税もかかり、手取りはもう少し下がる可能性があります。
短時間で働く人の社会保険の適用範囲は順次広がり、2022年には従業員数100人超、2024年には50人超規模の会社にも適用されることになっています。*3
106万円の壁は対象者がまだ限定的ですが、これから意識すべき人は増えていくかもしれません。
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2つ目の壁:130万円
130万円は配偶者の社会保険の扶養に入れるかどうかという壁でした。
このラインを越えると社会保険の扶養から外れ、パートで働く人自身が何らかの保険に加入しなくてはいけません。
実は配偶者の社会保険の扶養から外れたからといって、必ずしも自分で社会保険(健康保険と厚生年金保険)に加入するとは限りません。
先に紹介したとおり、パートで働く人が自分で社会保険に加入するためにはいくつかの条件があります。
扶養にも入れず、自分でも社会保険に入れないというケースでは、自分で国民健康保険および国民年金保険に加入しなければなりません。
国民年金保険料は月額16,540円(令和2年4月現在)、国民健康保険料は自治体によって異なりますが、一般的には給料から引かれる健康保険料よりは高めです。
手取り給与が減っても、自分で社会保険に加入する場合には数々のメリットがあります。
しかし国民健康保険や国民年金の場合は、配偶者の扶養に入っていた時と受けられる保障や将来の年金額は変わりません。
このようなケースに該当しそうなら、130万円の壁は越えないように収入調整するほうが良いかもしれません。
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3つ目の壁:150万円
150万円は、配偶者が「配偶者特別控除」の満額(38万円)を受けられるかどうかという壁でした。
「税金の壁」と聞くと、自分も所得税を払わずにすみ、かつ、38万円の「配偶者控除」を受けられる103万円の壁をイメージする人も多いかもしれません。
しかし、自分自身と配偶者と合わせた世帯分で手取り収入を考えると、103万円よりも150万円を意識したほうが高くなる可能性があります。
パート収入が年間103万円を越えて、150万円になった場合の影響を見てみましょう。
詳しい計算は省略しますが、パートで働く本人に150万円のパート収入以外に収入がなく、また自分で社会保険に加入したとすると、その年の所得税は1万2,880円(※)になります。
住民税は前年の収入をもとに計算されるため、ここでは前年は働いていないものとして考慮しないことにします。
(※)給与所得控除55万円、社会保険料控除21万2,400円、基礎控除48万円として計算
社会保険料と税金を引かれても、本人の手取りは103万円に抑える場合に比べて24万円程度多くなります。
一方、配偶者は「配偶者控除」を受けられなくなりますが、「配偶者特別控除」は受けられます。
配偶者特別控除は配偶者の所得金額によって控除額が変わりますが、配偶者の所得が900万円以下(※)であれば、配偶者特別控除の額は最大の38万円です。
これにより軽減される配偶者の所得税は、配偶者特別控除を含め、様々な所得控除を差し引いた後の具体的な所得額(税率)によります。
仮に税率が10%だとすると3万8,000円、20%なら7万6,000円軽減されることになります。
いずれにしても、本人が負担しなければならなくなる所得税額よりも配偶者が減税できる額のほうが大きくなります。
ただし、配偶者控除、配偶者特別控除とも、配偶者自身の所得によっても金額が異なることには注意しなければなりません。
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年収の壁は自分次第!他の制度も活用しながらベストな働き方を目指そう
ここまで3つの壁を中心に、パートで働く人の収入の壁について見てきました。
できるだけ税金を少なくして手取り収入を増やすことも、将来の年金が増えることもどちらも大事という人も多いでしょう。
このような場合には、他の制度を活用しながら、越えてしまった収入の壁を補うことも検討してみましょう。
たとえばiDeCoに加入する方法があります。
拠出した掛金の年間合計額を所得から差し引くことができるため、税金を少なくすることができます。
パートで働く人は、たとえば社会保険の扶養に入っていれば月額2万3,000円まで、自分で社会保険に加入していれば勤務先の制度により月額1万2,000円~2万3,000円を上限に、月々5,000円以上1,000円単位で払い込むことができます。
仮に150万円の壁のところで見たケースなら、毎月22,000円ずつiDeCoに拠出すれば、自分で払う税金をゼロにすることも可能です。
毎月拠出する掛金を投資信託などで運用していくことで老後資金を形成していくこともできます。
どの壁を意識するのがもっとも良いかは人それぞれに異なります。
今現在の家計を考えたいか、将来のライフプランを意識したいかなど、希望する家族のライフプランに合わせ、世帯全体でより良い選択をしてみましょう。
*1 出所)西尾市「妻のパート収入に対する税金」
*2 出所)国税庁「家族と税」
*3 出所)厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」
*4 出所) 協会けんぽ「被扶養者とは?」
*5 出所)協会けんぽ「令和2年度保険料額表(東京)」
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