「ブロックチェーン」という技術の名前を聞いたことのある人は多いと思います。
データを1か所で集中管理するのではなく、ネットワーク上に接続されている複数の端末で分散管理するというもので、様々な利点があることがわかっています。
中でもブロックチェーン技術の信頼性は高く、あらゆる産業への応用が見込まれています。
ブロックチェーンとはどのような技術なのか、どのように応用されているのかを、その将来像も含めて見てみましょう。
従来型一元管理とブロックチェーンの違い
「ブロックチェーン」の名を世に広めたのは、仮想通貨の登場でしょう。
仮想通貨の特徴のひとつは「貨幣の形を取らない」ことです。
とはいえ現在はキャッシュレス決済が普及しているのでこれと混同してしまうかもしれませんが、根本的な違いは別のところにあります。
同じ通貨を使っている全員が、その通貨に関する取引履歴を全て見ることができるという点です(図1)。
図1 ブロックチェーンの概念
出所) 経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備」p3
例えばある共同体で、お金の受け渡しを管理者であるXさん経由でしか行えないとします。
この場合、図1の左のように、Xさんがひとりでメンバーのお金の流れを握っている状態です。
皆からの信頼も厚いXさんですが、この方式では2つのリスクが存在します。
まず、もしXさんが病気で動けなくなってしまったら、メンバー間のお金のやりとりが止まってしまいます。
もうひとつは、誰かが不正をしてしまった時です。やりとりの情報はXさんにしかわかりませんから、Xさんに嘘をつく人がいたり、万が一Xさん自身が不正をしたりすると、真実を検証するのは難しくなってしまいます。
この共同体がブロックチェーン技術を導入すると事情はこのように変わります。
誰かひとりに管理を任せるのではなく、メンバーと他のメンバーとの間のお金の受け渡しや貸し借りが、全員が見られる帳簿にその都度記録されていきます(図1右)。
帳簿には時系列の履歴もしっかり残されています。
お金の流れの情報を全員が把握できるため、誰かがお金のやり取りを忘れてしまっても、他のメンバーが教えることができますし、誰かが嘘をついても即座にばれてしまいます。
一般的な通貨は皆からの信頼が厚いAさん、実社会では各国の中央銀行が担ってますが、通貨の信頼性や価値を担保するのに対し、ブロックチェーン技術では改ざんしにくい記録を全員が共有することで、通貨の信頼性を担保しているという違いがあります。
実際、ブロックチェーンはビットコインを実現するために生まれた技術です。
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ブロックチェーンの可能性
ブロックチェーンの利点は、管理機能が分散されていることで一部に不具合が生じてもシステム自体が維持されることや、なりすましやデータの改ざんが容易ではないところです。
またユーザー側から見ると、仲介役がいなくても信頼できる直接取引が可能なため、取引がシンプルになり手数料が不要になるという利便性やメリットがあります。
金融以外の分野でも、今後は幅広い応用が期待されています(図2)。
図2 金融以外の分野でのブロックチェーン応用事例
出所)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」p89
金融以外の分野の具体例としては、環境省が以下のような実証実験に成功しています。
再生エネルギー普及の一環として、家庭の太陽光パネルなどからの余剰電力の売買があります。
一般的に、太陽光パネルが発電した余剰電力は、電力会社を仲介役として電力会社が決めた値段で、再エネ電力を使いたい人や企業に販売されます。
その一方で、ブロックチェーン技術を利用して、発電者と利用者との直接取引を成立させたというのがこの実験です(図3)。
具体的には、「全国100程度の家庭で作られた再エネ電力を、香川県と宮古島でレンタル電動バイク等を使う人に燃料として販売した」というものです(図3)。
図3 ブロックチェーンを利用した再エネC2Cの概念
出所) 環境省「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」における成果の社会実装・商用利用に向けたC2C取引プラットフォーム実証の開始について
現実的な技術としては、電気は一度電線に入ってしまえば、そこに流れているのが再生エネルギーなのか火力発電所由来なのか見分けることはできません。
また実際の電気は、電力会社から送られてきます。
しかし、ブロックチェーン技術によってどこの誰が、いつどれだけ発電したのか、あるいはCO2を削減したのか、と言う形で記録を可視化することができるのです。
その「価値」を売り手と買い手が納得した、好きな価格で取引をすることができるという仕組みです。
この実験では1kWhあたり3円での取引が成立しました。
この技術の先にあるのは、再生エネルギーのさらなる価値向上です。
電力の買い手からは、相手がいつ発電しているのか見える上、売り手にも相手がいつ使っているのかをリアルタイムで知ることもできます。
例えばこれが一般家庭ではなく、「好きな有名人が自宅の太陽光パネルで発電した」環境価値を購入できるとなれば、この取引にはもっと高値がつくかもしれません。
このような付加価値は、再エネビジネスをさらに拡大させる可能性があります。
もちろん、なりすましであることも容易に判明します。
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65兆円規模の市場を動かす
経済産業省は、ブロックチェーン技術は幅広い分野に応用が期待され、67兆円規模に相当する産業に影響を与える可能性があると試算しています(図4)。
図4 ブロックチェーン技術が影響を与えるビジネスとその市場規模
出所) 経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備」p9
業種は様々ですが、いずれもブロックチェーンが可能にする「信頼できる直接取引」という点に着目しています。
これによって企業の業務効率と経費削減が進展し、顧客にとっては取引の納得感が高まることでビジネスに大きな変革がもたらされることが期待されています。
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まとめ〜法定通貨もデジタル化?
ブロックチェーン技術の台頭は、将来的に中央銀行が発行する通貨のあり方を変える可能性もあります。
現在、世界では「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の研究が進められています。
ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨のように、ドルや円といった中央銀行が発行する法定通貨もデジタル化できないかという試みです。
キャッシュレス決済が普及する中で、法定通貨のデジタル化によって安定的かつ効率的な金融システムの構築を目指して、欧米だけでなく中国、韓国、カンボジア、スウェーデンの中央銀行、そして日銀も実現に向けた取り組みを開始しています*1。
日銀は、2021年度の早い時期に概念実証への着手を目指しています*2。
法定通貨のデジタル化となるとプライバシーの確保や国境を越えた決済をどうするのか、など課題は多くありますが、さらなる技術開発や新しいビジネスの誕生で、わたしたちの生活も大きく変化しそうです。
*1 出所)日本経済新聞「日銀がデジタル通貨実験『21年度の早い時期に』」2020年10月9日
*2 出所)日本銀行「『中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針』のポイント」p3