近年、ロケットや衛星の開発・打ち上げに参入する民間企業が相次いでいます。
IoTや情報サービスの急拡大で、通信などに使われる小型・超小型衛星の打ち上げ需要が急増しているためです。
こうした民間の宇宙ビジネスは資源探査や宇宙旅行などの分野にも広がっており、世界で1,000社以上のベンチャーがひしめく市場になっています。
宇宙開発市場は100兆円規模へ
宇宙の商業利用は広がり続け、ロケットの打ち上げ、衛星の開発・製造や宇宙旅行まで、宇宙ビジネスは拡大を続けています。
モルガン・スタンレーのレポートによると、2040年には世界の宇宙産業は100兆円市場にまで成長すると予測されています*1。
特に注目されているのが、民間の小型衛星ビジネスです。
人工衛星はテレビ放送や天気予報、GPSナビゲーションなどに利用され、既にわたしたちの生活の中で重要な基本インフラになっていますが、衛星から得られるデータの質・量は飛躍的に向上しています。
また衛星は小型化が進み、打ち上げ費用の低価格化も進んでいます。
同時に衛星からのデータを利用したビジネスは高速インターネット通信・IoTや自動運転、環境ビジネスのための地表観測などといった幅広い分野で拡大しています。
近年の小型・超小型の製造生産、情報受信施設などの地上設備、衛星を利用した放送・通信などの衛星サービスも合わせた産業の市場規模は、年率5%程度という急成長です(図1)。
図1 世界宇宙産業市場規模の推移
出所:経済産業省(2020)「宇宙輸送システムと宇宙産業について」p1
現在、衛星やそのデータ利用、ロケット開発、資源探査や宇宙旅行などの分野には、世界で1,000社を超える宇宙ベンチャー企業がひしめいている状態です*2。
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成長のカギを握る「衛星コンステレーションビジネス」
衛星からのデータを利用してどのような新ビジネスが展開されるのかは様々ですが、中長期的な小型衛星の打ち上げ需要については幅広い予測があります。
小型・超小型衛星の需要拡大のカギを握るのは、現在注目されている「衛星コンステレーションビジネス」です。
「コンステレーション」は「星座」という意味です。
従来の人工衛星は、1つの衛星に1つのミッションを与えるという形のものが多く見られました。
しかし今後は、多数の衛星を打ち上げてコントロールした軌道に配置し、それらを連携させてサービスを提供するのが「衛星コンステレーション」です。
まさに星座のように、衛星の配置を点と点を線で繋いで運用する技術です。
具体例としては、イギリスの通信会社のプロジェクトがあります。
約650機の小型通信衛星を打ち上げて地球を覆うように配し、地球の全地域に高速インターネットを提供する計画です。
すでに2019年2月に6機、2020年2月に34機の小型衛星を打ち上げ完了しています。
次回の打ち上げは2020年12月の予定で、以降34~36機ずつ衛星の打ち上げを続け、2021年末までには商用サービスを開始する予定だと公表しています*3。
また、超小型衛星を使って撮影した画像を販売しているアメリカのベンチャー企業は軌道上に100機以上の超小型衛星を配備して地球観測網を構築しています。
画像は、例えば農業分野では画像によって穀物の収穫予測ができるほか、森林の監視などにも利用されています。
他にも数千機、1万機といった大規模コンステレーションが既に予定されています。
500kg程度以下の小型衛星の製造・打ち上げ市場は、2006年から2015年までの10年間で125億ドルだったのに対し、2016年から2025年の10年間では、その約11倍に当たる223億ドルにまで拡大するとの見込みも報告されています(図2)。
図2 世界の小型衛星市場の推移
出所:経済産業省(2018)「コンステレーションビジネス時代の到来を見据えた 小型衛星・小型ロケットの技術戦略に関する研究会 報告書」p9
さらに、衛星利用がビジネスにパラダイムシフトを起こした場合には、2020年から2040年にかけて、小型・超小型衛星の打ち上げ需要は年間1150機以上にまで膨らむポテンシャルがあるという試算もあります*4。
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日本での宇宙機器産業
日本ではこうした宇宙産業の市場はまだ小さく、かつ官需にその多くを依存しているという現状があります(図3)。
図3 日本の宇宙産業シェア
出所:経済産業省(2020)「宇宙輸送システムと宇宙産業について」p5
ただ、2005年前後から宇宙ベンチャー企業が次々と立ち上がり、地球観測やロケットの打ち上げ・開発などの分野に参入し、国内外から広く資金調達しています。
中には、運用を終えた人工衛星のかけらなど、いわゆる「宇宙ごみ」(スペースデブリ)回収の事業化に向けた研究開発を行っている企業もあります。
増え続ける宇宙ごみは宇宙開発上の大きな問題のひとつです。
宇宙空間では実際、運用を終えた衛星が運用中の衛星に衝突する事故が発生しており、宇宙ごみ回収の事業化もビジネスとして世界で注目されています。
方法は様々で、宇宙ごみにレーザーを照射して軌道を変えたり、磁石で補足したりして大気圏に誘導して燃え尽きさせる方法、あるいはロボットアームで直接掴んで回収する方法などの研究が進められています。
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まとめ
衛星やロケットは、かつては巨額の資金を必要とするために国やごく一部の機関による事業でしかありませんでした。
しかし衛星製造技術や打ち上げ技術の進歩により、小型衛星は「量産」の時代に入っています。
また、宇宙産業は、例えば衛星を製造・運用するには部品や新素材といったハードだけでなく、運用ソフトウェア、データサービス、マーケティング、経営ノウハウといったビジネスも同時に生み出すことが期待されます。
さらには衛星を利用したITビジネスなどはまさにアイデアの数だけ存在しますので、その市場ポテンシャルは計り知れない規模にもなり得ます。
多くの民間企業の参入が加速すれば、宇宙はどんどん身近なものになっていくでしょう。
*1 出所)Morgan Stanley(2020年7月)「Space:Investing in the Final Frontier」
*2 出所)経済産業省(2020年2月)「宇宙輸送システムと宇宙産業について」p4
*3 出所)OneWeb(2020年9月)「OneWeb and Arianespace to restart launches in December 2020」
*4 出所)内閣府(2018年5月)「小型・超小型衛星の打上げ需要調査 概略版」p5