2019年度の相続法大改正 変更点と使いやすくなった3つの制度のポイントを解説

2019年度の相続法大改正 変更点と使いやすくなった3つの制度のポイントを解説

相続に関して意識しなければならないルールが「相続法」です。

2019年に相続法の大改正が行われ、いくつかの制度が相続の当事者にとって使いやすい形に変更されました。

この記事では、相続法改正で使いやすくなった3つの制度(配偶者居住権・預貯金の仮払い制度・遺留分侵害額請求)をピックアップして、その制度内容のポイントを解説します。

そもそも「相続法」とは?

相続に関するルールと聞くと、「相続税」が頭に浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、相続税に関するルールを決めているのは「相続税法」という法律で、「相続法」とは異なります。

「相続法」とは、遺産分割や遺言など、相続のやり方に関するルールを定める法律で、民法の一部として規定されているものです。
2019年の改正では、特に遺産分割に関するルールについて、相続人間で円滑な遺産分割ができるようにさまざまな変更が加えられました。

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相続法改正で使いやすくなった制度①:配偶者居住権

2019年相続法改正で新しく設けられた制度の一つが、「配偶者居住権」です。
配偶者居住権とは、相続財産である建物に住んでいた(被相続人の)配偶者が、その建物に住み続けられる権利をいいます。

なお、配偶者居住権が設定されない場合であっても、相続財産に無償で居住していた配偶者の住居が突然失われてしまう事態を防ぐため、「配偶者短期居住権」という期間限定の権利が配偶者に認められます。
ただし、配偶者短期居住権は、配偶者居住権とは全く別の権利です。

旧ルール

改正前の相続法においては、配偶者居住権の制度が存在しませんでした。

そのため、配偶者が自宅建物に変わらず住み続けるためには、以下の方法からいずれかを選択するしかありませんでした。

①配偶者が建物を相続する

②配偶者以外の相続人が建物を相続し、配偶者は使用借権の設定を受ける

旧ルールで選択することのできた①と②の方法は、どちらも両極端といえるものでした。

①の配偶者が建物を相続する方法については、配偶者の相続分が大きくなりすぎて、相続人間で遺産の配分が偏ってしまうというデメリットがあります。
これは、建物自体が相続財産の中でもかなりの金額割合を占めるケースが多いためです。

一方、②の配偶者が使用借権の設定を受ける方法については、配偶者の権利が弱すぎるという懸念があります。
たとえば建物を相続した相続人が、第三者に建物を譲渡してしまうと、配偶者の使用借権は失われてしまうのです。

新ルール

配偶者居住権の制度が新設されたことにより、上記の①②に加えて、以下の方法を選択することができるようになりました。

③配偶者以外の相続人が建物を相続し、配偶者は配偶者居住権の設定を受ける

改正のメリット

③の配偶者居住権を利用する方法は、①と②の中間に位置しています。

配偶者居住権は、原則として配偶者の終身にわたって存続し(民法1030条本文)、登記によって第三者対抗要件を備えることができます(民法1031条2項)。
そのため配偶者居住権は、使用借権よりもはるかに強力な権利であり、配偶者の権利を保護する観点から好ましいといえます。

さらに、配偶者居住権は強力な権利であることに鑑み、建物価値に対して何割かの財産的価値が認められています。
そのため、建物全体を配偶者が一人で建物を相続する場合に比べて、建物所有者と配偶者の間で、相続する金額を分散することができます。

つまり、配偶者居住権の新設により、従来の両極端な2つの方法の間を取った選択肢が生まれたことになります。
その効果として、相続人間でバランスの良い遺産分割を行うための選択肢が広がったといえるでしょう。

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相続法改正で使いやすくなった制度②:預貯金の仮払い制度

「預貯金の仮払い制度」も、今回の相続法改正により、新たに創設された制度です。

相続人は、亡くなった被相続人の葬儀や身辺処理などに関して、出費を強いられるケースがあります。
このような場合に備えて、被相続人の預貯金から一定金額を引き出す権利を相続人に認めたのが、預貯金の仮払い制度です。

旧ルール

相続法改正以前は、遺産分割が完了する前に被相続人の預貯金を引き出すには、相続人全員の同意が必要でした。

新ルール

相続法改正により新設された預貯金の仮払い制度により、以下の金額を上限として、各相続人が単独で被相続人の預貯金を引き出せるようになりました(民法909条の2。ただし、上限は150万円)。

引出可能額=相続開始時の預貯金額×1/3×当該相続人の法定相続分

改正のメリット

相続人同士が仲違いして揉めているようなケースでも、相続人が被相続人の預貯金を一定金額引き出せるので、相続人の負担が軽減されました。

さらに金融機関の側としても、相続人単独での申請の方が、相続人全員の同意があることを確認するよりも簡単に済みます。
そのため、手続きの処理スピードが上がるという副次的なメリットも存在します。

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相続法改正で使いやすくなった制度③:遺留分侵害額請求

相続法改正では、遺留分に関するルールも大きく変更されました。
特に、「遺留分減殺請求」が「遺留分侵害額請求」へと名称を変更し、その内容もかなり使いやすい方向に改善されたことが注目されます。

「遺留分」とは、相続財産のうち一定金額を最低限相続できる権利で、兄弟姉妹以外の相続人に認められています。
遺言書において、遺留分に不足する相続分の指定しか受けられなかった相続人は、他の相続人に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。

旧ルール

相続法改正以前の制度である「遺留分減殺請求」は、遺留分を侵害する贈与や遺贈の「目的物」の返還を求めるというものでした。

たとえば、土地の生前贈与により遺留分を侵害された相続人は、生前贈与を受けた人に対して「土地の〇%(の共有持分)を返せ」と請求することになります。

しかしこのルールでは、遺留分減殺請求後に土地の共有状態が生じ、その後の運用や処分を行うことがかなり面倒になってしまいます。

新ルール

相続法改正後の「遺留分侵害額請求」は、精算方法が金銭に一本化されました(民法1046条1項)。

改正のメリット

一律金銭での精算とされたことにより、相続人間の権利関係をいたずらに複雑にすることなく、遺留分に関する権利処理を行うことが可能となりました。
このことは、遺留分の侵害を主張する側・される側の双方にとってのメリットといえるでしょう。

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まとめ:相続法のルールを踏まえて賢い遺産分割を

相続法改正で新設・変更されたものを含めて、相続法のルールをよく理解しておくと、各相続人のニーズを踏まえた適切な遺産分割を行えるようになります。

しかし、相続法のルールは多岐にわたり、必ずしもその内容がわかりやすいとは言えません。
そのため、信頼できる専門家(弁護士など)に相談したり、相続財産を管理している金融機関などに取り扱いを確認したりしながら手続きを進めると良いでしょう

遺産分割は、その後親族間での感情的なしこりを残さないように、できるだけ相続人全員が納得できる形で行うのが理想です。
相続法のルールを賢く利用すれば、遺産分割の方法についての選択肢が広がりますので、公平・適切な遺産分割を行える可能性も高まるでしょう。

この記事で紹介した制度も適宜活用して、円滑な遺産分割を実現してください。

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