ナノマシンが血液中をパトロール、見つけた病気を勝手に治す?「体内病院」の実用化はすぐ近くに

ナノマシンが血液中をパトロール、見つけた病気を勝手に治す?「体内病院」の実用化はすぐ近くに

体調がすぐれないとき、「自分が病院に行くのではなくて病院が来てくれればいいのに」と思ったことはないでしょうか。

実は現在、病院がやってくるどころか、体の中に自分専用の病院が常駐し、病気を見つけ次第すぐに治療を開始するという「体内病院」の研究が進んでいます。

SF映画のような最先端の技術が、医療の未来を大きく変えようとしています。

米粒の10万分の1サイズの病院をつくる?

1966年にアメリカで公開されたSF映画「ミクロの決死圏」は、のちにテレビで何度も放映された大ヒット作品です。

アメリカ亡命の直後に襲撃されて脳内出血の重傷を追い、外科手術ができなくなった要人の命を救うべく、潜水艦ごとミクロ化した医療チームが要人の体内に送り込まれ、患部を探して治療をするというミッションを課せられるというものです。

当時は「奇想天外なアイデア」と言われていましたが、まさにこの映画のような話が現実になろうとしています。

現在進められている「体内病院」のプロジェクトは文字通り、体の中に病院を設置する、というものです。
具体的には50ナノメートル(1ミリメートルの5万分の1)程度の微細なカプセルに抗がん剤などの薬剤を包んで注射で送り込みます。
そして、送り込まれた「ナノマシン」が自らのセンシング機能で患部を探し当て、患部に薬剤を放出することで治療まで行うナノテクノロジーです。

図1 ナノマシンによる医療の概念
(出所:「ナノ医療イノベーションセンターについて」川崎市資料 p8)

検査・診断・治療という病院機能をナノサイズのカプセルに押し込めて人体の中に送り込むという映画の世界そのものです。
にわかには信じがたいかもしれませんが、高齢化社会の医療の中で重要な役割を担う技術として注目され、一部は実用化に近づいています。

研究の重点対象になっているのは、日本では年間100万人が罹患し、38万人が死亡していると予測されている*1がんと、高齢者に多いアルツハイマー型認知症です。

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ステルス機で薬物を輸送し、目的地に投下する

体内病院プロジェクトの一環としてすでに臨床研究が実施されているのが、ナノサイズの粒子(ナノデバイス、ナノマシン)に抗がん剤を包みこんで患者に投与し、患部に届けるという「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」です。

図2 ナノデバイスの構造
(出所:「戦略的創造研究推進事業 CREST 研究終了報告書」科学技術振興機構(JST) p15)

ナノデバイスは、ウイルスほどの大きさしかない高分子です。
表面にはがん細胞の表面を見分ける「リガンド分子」という構造があり、内側のコア部分に薬物が包み込まれた構造をしています。
また、全体が水になじみやすい高分子で包まれているため、生体防御攻撃を受けにくくなっています。

異物として検知されることなく、ステルス爆撃機で薬物を運ぶような状態です。

このデバイスが血液中を移動し、がん細胞に侵入したのちに自ら壊れて内包していた薬を放出する、というのがドラッグデリバリーシステムです。
がんを攻撃するまでの振る舞いはさながら「トロイの木馬」のようだと言われており、特に難治性のがんに対して力を発揮することがわかってきています。

図3 薬剤耐性がん細胞への侵入と薬剤放出
(出所:「高分子ナノテクノロジーに基づく標的指向型ドラッグデリバリーシステムの創出」ナノテクジャパン)

がんの中には、がん細胞が薬剤耐性を獲得してしまい抗がん剤が効かなくなるケースも少なくありません。
薬剤耐性のあるがん細胞は、抗がん剤が侵入してきてもすぐに敵だと認識し、「解毒タンパク質」を細胞内に作って抗がん剤を不活性化してしまいます(図3左)。

これに対してナノデバイス(図3右:抗がん剤内包ミセル)は、薬剤単体よりも大きいにもかかわらず、がん細胞が好む栄養の形にコーティングされているため、がん細胞が積極的に血管から吸い寄せて自ら「誤飲」してしまいます。
そしてエンドサイトームという膜に守られて細胞内に入り、異物とみなされないまま細胞核に接近します。

そして、がん細胞の内部は酸性が強いという性質を利用して、ナノデバイスは周囲のpHが5~6程度になったときに外殻が壊れるように作られています。
がん細胞の核近くに迫ってからようやく薬物を放出するため、強い攻撃力を持つのです。

こうした機能が他の治療法との相乗効果を出すことも期待されています。
2020年に入って「ステージ4」の膵臓がんと胆道がんの患者を対象に行われた臨床試験は超音波との組み合わせによるもので、約42%(12人中5人)で腫瘍が縮小しました。
また痛みを訴えていた6人のうち2人で痛みが改善しました。
さらに、もっとも薬の量が多く、超音波の強度が強い組み合わせでも重い副作用がなかったことが報告されています*2

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投薬だけでないナノマシンも登場

ドラッグデリバリーサービスによるがん治療は実用化目前まできていますが、「体内病院」の最終目標は、血液中を巡らせておくことで「病気を探して検査して診断」する段階までも自動化することです。
その上で、ドラッグデリバリーサービスが起動するという理想があります。

がんやアルツハイマー型認知症に対してこのような予防・治療ができれば、医療費の大幅な削減に繋がるでしょう。
検査のために病院に行かずとも病気を早期に発見し、必要な治療にすぐに取り掛かるという仕組み作りに向けて、研究は着実に進んでいます。

例えば、ナノマシンに造影剤を内包させてがん細胞に届け、がん細胞のなかで造影剤を放出する「ナノマシン造影剤」の技術が確立されつつあります。
マウスを使った実験では、肝臓に転移したわずか1.5mmの大腸がんをMRIで発見することに成功しています(図4)。

これまでの技術では小さすぎて見つけにくかった、特に転移がんを微小なうちに見つけられるという先進的な技術です。

図4 ナノマシン造影剤で映し出された微小な転移がん
(出所:「がんの悪性度を検知する『ナノマシン造影剤』を開発」量子化学技術研究開発機構)

また、アルツハイマー型認知症に対するナノマシンのアプローチのなかで難しかったのは、脳内にナノマシンを届けることです。

脳の場合は「血液脳関門(Blood-brain bariier:BBB)」と呼ばれる強い生体内バリアがあり、循環血液と脳神経系で薬剤を輸送することが著しく制限されていました。

しかし、このBBBを通過できるナノマシンの設計が見つかっています*3
ここに治療薬を載せて運ぶことができれば、アルツハイマー病以外の精神疾患の治療についても、ナノマシンが活躍できる可能性が広がります

投薬用をはじめとするナノマシンの研究は、スタートアップを含め様々な企業で研究が進められています。

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入院から通院、通院から在宅へ

「体内病院」が目指すものは医療費の削減と、高齢化社会での病気への心配を減らすことです。

ナノマシンによるドラッグデリバリーが一般的になれば、「切らないがん治療」も実現でき、入院を必要としない日帰り治療も可能になります。
また、再発や転移を積極的に発見できるナノマシンを体内に入れることができれば通院検査の数も大幅に減らすことができます。
また、DNAをナノマシンに搭載して移動させることができれば、治療に必要なタンパク質をその場で製剤することも可能になります。

高齢化社会に向けて、入院から通院へ、通院から在宅治療への切り替えが進められるのは有効な対策になります。
また、毛細血管の太さよりも小さなナノカプセルを体の中に巡らせ、病気の兆候を見つけ次第治療を開始できるシステムが構築されれば、予防医療の新しい形を切り開くことにもなります。

2045年の「体内病院」実現に向けて川崎市に開設された「ナノ医療イノベーションセンター」には現在数十の大学や企業などが集まっています。
またドラッグデリバリーシステムの研究開発をきっかけに製薬会社に成長しようというベンチャー企業もあり、ナノ医療は産業としても盛り上がりを見せつつあります。

今後の成長分野の一つとして、注目してはいかがでしょうか。

*1 出所)国立がん研究センター がん情報サービス「2019年のがん統計予測

*2 出所)日経電子版 2020年3月31日「難治がんにナノマシン 超音波併用実験で効果

*3 出所)日本医療研究開発機構「低用量抗体医薬によるアルツハイマー型認知症の治療を可能にするスマートナノマシン®の分子設計

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