自動運転技術がもたらす自動車産業の変革は、100年に一度と言って良い大きなインパクトを産業界に与える可能性があります。
そして自動運転車の研究・開発には、自動車メーカーだけでなく、スタートアップ・IT企業なども参画し、国家レベルが関与する熾烈な国際競争となりつつあります。
そこで本稿では、自動運転技術の概要を押さえた上で、技術開発をめぐる国内外の動向を探り、今後を展望します。
自動運転技術とは
そもそも自動運転技術とはどのようなものでしょうか。
自動車の運転には、運転者の関与度合によって様々な概念が存在しています。
その段階を示す自動運転レベルの現在の一般的な定義は、表1-1の6段階です*1:p.11。
出所:*2 経済産業省(2020)自動走行ビジネス検討会 「自動走行の実現に向けた取組報告と方針」Version 4.0 p.4:表1を基に三菱UFJ国際投信作成
運転者が全ての運転操作を行うのが0レベルで、自動車の運転支援システムが一部の運転操作を行う段階を経て、3レベル以降は自動運転システムがすべての操作を行う高度な段階です。
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自動運転化の重点目標
自動運転化に関する国家レベルの取り組みに、ITS(高度道路交通システム)があり、その一環として、「官民 ITS 構想・ロードマップ2019」が策定されています*1。
同構想が掲げる基本的な戦略は以下の表2中の3項目です。
出所:*1 首相官邸(2019)「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019」 p.19を基に三菱UFJ国際投信作成
こうした戦略に基づき、同構想は以下の図1のような目標を設定しています。
出所:*1 首相官邸(2019)「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019」 p.18を基に三菱UFJ国際投信作成
図1では社会面と産業面に分けて目標を示していますが、社会面にフォーカスしてみましょう。
2020年までの交通事故削減に係る指標は、「2020年を目途に交通事故死者数2,500人とする」ですが、実際の状況は、2019年の交通事故死者数は3,215人で、目標を達成するのはかなり厳しいことがわかります。
また、死者のうち33.7%、つまり3分の1強が自動車乗車中でした。*3: p.1
以上のような状況から、自動運転化のニーズが明確に把握できます。
次に、産業面に関しては、これから詳しくみていくことにします。
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現在の到達レベルと国内外の動向
では、現在、自動運転化はどこまで進んでいるのでしょうか。
以下の表1-2は、先ほどみた自動運転レベルのうち、レベル3以上の段階を抜粋したものです。
現在は既にレベル3にまで到達し、レベル4に向けた開発競争が熾烈を極めています*4:p.23-24。
日本勢は高速道でのレベル3(無人運転)では先行しています。
レベル4(限定条件下での無人運転)は、官民連携による実証実験が進み、2020年度中に地方部で無人自動運転サービスが導入される見込みです。
さらに、アメリカ勢とのアライアンスによって、開発の加速化を図っています。
レベル4で先行しているのは、アメリカです。
グーグル系のWaymoは2018年12月から「Waymo one」という限定地域でレベル4の有償タクシーサービスを開始し、2019年11月にはアリゾナ州フェニックスにおいても保安運転手を同乗させず、遠隔監視のみでレベル4を実現しています。
アメリカ勢では、この他の企業もレベル4の実現に向けてしのぎを削っています。
これに猛追をかけているのが中国勢で、百度(Baidu)は自動運転タクシーの実証を進めています。
2019年にはドイツ勢にもさまざまな動きがありました。
VWはアメリカのフォードと提携を結び、DaimlarとBoschはアメリカでレベル4の実証実験を始め、BMWとも提携しました。*4:p.23
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CASEと自動運転を活用した事例
ここでは、自動運転を活用した事例についてみていきたいと思います。
CASE
自動運転を語る上で欠かせないコンセプトがあります。
それは、モビリティーの構造変革を表す“CASE”、以下の頭文字を合わせたものです*2:p.1。
- Connected=つながること(動いている車と離れた場所の間をインターネットでつなぐ)
- Autonomous=自動走行
- Service & Sharing=サービスとシェアリング
- Electric=電気自動車
このうちAが自動運転にあたりますが、C・A・S・Eはそれぞれ別のコンセプトでありながら、互いに関連しています。
このすべてが組み合わさると、今までにないサービスが実現し、社会システムや人々のライフスタイルに変革をもたらします。
このように、CASEによって社会と利用者をつなげるビジネス領域を拡大し、幅広い業界を巻き込んで社会改革を起こそうとする動きが本格化しているのです*5:pp.8-9。
つまり、自動運転の実現を最終目的とはせずに、次世代のモビリティ社会を見据えた動きが加速化しているのです。
自動運転を活用した取り組み
ここでは、自動運転を活用した事例として、取り組みをみていきましょう。
トヨタ自動車株式会社(以下、「トヨタ」)の Woven City をみたいと思います。
トヨタが2020年1月に公表したこのプロジェクトのポイントは以下のようなものです *6。
- あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」を東富士(静岡県裾野市)に設置。
「Woven City」と命名し、2021年初頭より着工 - 企業や研究者に幅広く参画いただき、CASE、AI、パーソナルモビリティ、ロボット等の実証を実施
- デンマークの著名な建築家であるビャルケ・インゲルス氏が街の設計を担当
これは、工場跡地を利用して、将来的には約70.8万m2 規模の実証都市を創設するというもので、2021年初頭に着工予定です。
プロジェクトの目的は、CASEを見据え、この街で技術やサービスの開発と実証をスピーディに行い、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることです。
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展望と課題
ここでは、日本を中心に展望と課題を考えます。
展望
内閣府による「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の概略は以下から閲覧できます*7。
内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の概略」
研究者による今後のシミュレーションでは、
- レベル4の乗用車の全体に占める割合は、2040年には50%、2050年には80%を超える
と推計されています*8:p.7。
課題
最後に課題をみていきましょう。
まず、安全性の問題です。
2016年、アメリカのメーカーによるオートパイロット機能の実証実験中に、自動ブレーキが作動せず、運転者が死亡するという事故が起こりました*9:p.3。
他メーカーも2018年に死亡事故を起こしています*4:p.23。
さらに、その後、実証実験ではなく、半自動運転車を運転中の死亡事故も起こっています。
今後、自動運転中に事故を起こした場合、あるいは事故に遭遇した場合、その責任は誰がとるのか、自動車保険はどうするのかという課題があります。
この件に関連して、内閣府は2020年6月、2017年に開始されたドイツ連邦教育研究省(BMBF)との研究活動の連携を更に強化しました。
研究対象は、自動運転の安全性評価とサイバーセキュリティ―の強化です*10。
次の課題は免許非保有者の自動運転利用はどうするのか、何歳から自動運転利用を許可するかという問題です*8:p.6。
さらに、SDGsとの関連で、以下について研究し、実証していく必要があります*8:p.5。
- 交通事故削減
- 渋滞削減とCO2排出削減
- 都市構造・経済・産業・生活・教育機会への影響
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おわりに
以上みてきたように、自動運転には数々の課題があるものの、一部、メーカーの半自動運転車は既に販売され、アメリカではレベル4のタクシーも実現しています。
熾烈な開発競争が今後、技術革新をさらに加速化させていくでしょう。
ただ、レベル5までの完全自動運転が実現できたとしても、それが最終目的ではありません。
その自動運転技術をどのように社会実装していくのか、この技術をどう生かし、どのような社会を構築していくのか、考えるべきポイントはそこにこそあるのではないでしょうか。
*1 出所)首相官邸(2019)高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・ 官民データ活用推進戦略会議「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019」(2019年6月7日)
*2 出所)経済産業省(2020)自動走行ビジネス検討会 「自動走行の実現に向けた取組報告と方針」Version 4.0 」(2020年5月12日)
*3 出所)警視庁(2020)警察庁交通局「令和元年における交通死亡事故の発生状況等について」(2020年2月13日)
*4 出所)経済産業省(2020)「第1回 モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会 事務局参考資料」(2020年3月31日)
*5 出所)日本学術会議(2017)総合工学委員会・機械工学委員会合同 工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会「提言 自動運転のあるべき将来に向けて ― 学術界から見た現状理解 ― 」(2017年6月27日)
*6 出所)トヨタ自動車株式会社(2020)「トヨタ、『コネクティッド・シティ』プロジェクトをCESで発表」
*7 出所)内閣府(2020)「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の概略」
*8 出所)SIP(2019)(国立大学法人東京大学、学校法人同志社)「戦略的イノベーション創造プログラム 第2期自動運転(システムとサービスの拡張)自動運転による交通事故低減等へのインパクトに関する研究 報告書概要」
*9 出所)内閣官房(2016)IT総合戦略室「ITS・自動運転を巡る最近の動向 (2016年春以降の動き)」(2016年12月7日)
*10 出所)内閣府(2020)「共同プレリリース:~自動運転の安全性向上に向けた国際共同研究を教化~内閣府とドイツ連邦教育研究省は日独の研究連携を強化」(2020年6月2日)