ポイント
昨今の投資インフラの発達により、海外投資は一般投資家にとっても選択肢の一つになるほどに、ハードルが低くなってきました。
そして海外投資の普及は、特に投資信託の世界において顕著です。
日本だけでなく、他の先進国や新興国に資産を分散させる「国際分散投資」を実践する人も多く見られるようになってきました。
その一方で、
「先進国とはどこを指すか」
「新興国とはどこを指すか」
と聞かれて、きちんと回答できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は意外と知らない「投資における先進国・新興国」について解説します。
実は先進国・新興国の明確な定義はない
まず、先進国・新興国とはどのような国を指す言葉か大まかに考えてみましょう。
技術水準・生活水準・経済水準が世界の中で相対的に高い国が先進国。
技術水準・生活水準・経済水準の向上や発展が新たに興りつつある国が新興国。
一人一人のイメージに程度の違いはあっても、概ね上記のような解釈と言って良さそうです。
しかし実は、先進国・新興国には明確な定義がなく、また個人や団体によってその分類はまちまちで、必ずしも一致していません。
たとえば
「先進国とはG7(主要先進7ヵ国)のことだ」
と定義する人がいても
「先進国とはOECD(経済協力開発機構)加盟国のことだ」
と定義する人がいても、どちらも間違いとも正解とも言えません。
先進国・新興国の分類は曖昧で、また時にデリケートな問題でもあるのです。
その上で、投資の世界に限定すればある程度、共通認識として利用しやすい分類があります。
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投資の世界では指数算出会社の分類を参考に
一つの参考として、アメリカの指数算出会社MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の分類があります。
同社では、指数算出のメソドロジー(方法論)として、先進国・新興国の分類を定義しています。
今回はMSCIによる先進国・新興国分類を投資の世界における一つの分類基準と考えてみます。
MSCIが公表している「MSCI Global Investable Market Indexes Methodology」(2020年8月)で定義されるのは、下記の先進国23か国・新興国26か国です。*1
オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、香港、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、シンガポール、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ合衆国
アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、チェコ共和国、エジプト、ギリシャ、ハンガリー、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、メキシコ、パキスタン、ペルー、フィリピン、ポーランド、カタール、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ共和国、台湾、タイ、トルコ共和国、アラブ首長国連邦
これら全てを暗記することは現実的ではないため、主要な国を大まかに覚えておきましょう。
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先進国・新興国を表す株式指数
前述のMSCI分類を基に、先進国・新興国それぞれの株式指数が作られています。
日本以外の海外先進国の市場平均を表す「MSCI コクサイ・インデックス」、新興国の市場平均を表す「MSCI エマージング・マーケット・インデックス」が有名です。
市場平均と同じ値動きを目指すインデックス運用の連動対象指数として、どちらの株式指数も多くのインデックスファンドに採用されています。
加えて、日本を含む先進国の市場平均を表す「MSCI ワールド・インデックス」、先進国・新興国を全て合わせた「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」といったよりグローバルな株式指数も算出されています。
これら株式指数に連動するインデックスファンドを購入する場合、以下のように組み合わせることで容易に国際分散投資を実現することができます。
- 国内株式:TOPIX(または日経平均)のインデックスファンド
- 海外先進国株式:MSCI コクサイ・インデックスのインデックスファンド
- 新興国株式:MSCI エマージング・マーケット・インデックスのインデックスファンド
さらに、日本、海外先進国、新興国の全てを対象としたMSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスのインデックスファンドも徐々に増えてきています。
つまり、一つのファンドで先進国・新興国に投資をすることも可能です。
保有ファンドが一本で済めば把握や管理に手間がかからないことは、とても魅力的と言えそうです。
その一方で、国内:海外先進国:新興国の比率を自分で調節することができないため、配分比率を任意に調整したい場合は各ファンドを併せ持つ選択肢の方が適切でしょう。
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先進国・新興国市場で最も影響力の大きい国は?
前述の先進国・新興国の株式指数は、各国を均等に組み入れて計算しているわけではありません。
各国の株式市場における時価総額の比率で割り振っています。
つまり、時価総額の大きい市場を持つ国ほど株式指数に与える影響が大きいと言えます。
MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスに連動するインデックスファンドの目論見書から、先進国・新興国の各国の配分比率を確認することができます。
2020年3月時点のデータでは、先進国ではアメリカが6割強、新興国では中国が4割強といずれも大きな存在感を示していることがわかります。*2
そのため先進国全体に投資していても、アメリカ国内の景気動向やドル高/ドル安といった為替動向にリターンが大きく左右されることは、あらかじめ理解が必要です。
同じく、新興国全体への投資では中国の影響が最も大きくなります。
ただしこれはあくまでも2020年時点の話ですので、各国のパワーバランスに将来変化があれば「各市場で最も影響力の大きい国」が入れ替わる可能性もゼロではありません。
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先進国・新興国の構成国はダイナミックに置き換わる
先進国・新興国の分類は固定ではなく、各国の状況によって定期的に見直されます。
他にもフロンティア市場から新興国市場へ(またはその逆)の分類変更もたびたび発生しており、先進国市場に比べて新興国市場は構成国が入れ替わりやすい傾向にあります。
そして構成国の入れ替わりには、メリットとデメリットがあります。
メリットは、各国の状況に動的にキャッチアップできることです。
たとえば先進国市場の株式指数はその時点で「先進国の分類にふさわしい国々」で構成されていなければ指数の正当性が失われ、たちまち形骸化してしまう恐れがあります。
株式指数の中でその構成が定期的にアップデートされるからこそ、インデックスファンドの保有者はその中身を深く意識しなくても10年20年と保有していけるのです。
デメリットは、指数の連続性が損なわれる可能性があることです。
各分類から抜ける国や各分類へ加わる国があった場合、既存の国の市場に何も変化がなくても指数の算出結果は変わってしまいます。
また連続性が損なわれるだけに留まらず、インデックスファンドでは構成国の入れ替わりにより内部的に売買コストが発生するため、連動対象指数との乖離を招く可能性もあります。
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まとめ
投資の世界における先進国・新興国について解説しました。
先進国・新興国の分類を知っておけば世界に目を向けた投資をやりやすくなるだけでなく、インデックス投資に対する理解も深まるのではないでしょうか。
資産運用のリターンやパフォーマンスに直接寄与するものではありませんが、資産運用するうえでの基礎知識として時々でも分類を確認してみてはいかがでしょうか。
*1 出所)MSCI「MSCI Global Investable Market Indexes Methodology August 2020」96~97ページ
*2 出所)三菱UFJ国際投信「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)交付目論見書」2ページ
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三菱UFJ国際投信株式会社
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