最近では「定期昇給しない会社」も珍しくありません。
数字を見れば、それがよくわかります。
厚生労働省の調査結果*1によると、平成30年時点で、定期昇給の制度を保持している企業は全体の約8割。
そのうち「実際に定期昇給する会社」は、7割〜8割程度とあります。
また、管理職であれば、実際に定期昇給が行われた企業は、全体の7割未満です。
特に、最近立ち上がった、スタートアップなどの勢いのある会社は、事業環境が急激に変化するため「定期昇給」の概念を持たない会社が多いでしょう。
給与は毎年改定される「職責」や「役割」によって変化し、実績と交渉によって高くしていくもの、との認識を持つ人が多いようです。
実際、知人に「定昇あるの?」と聞くと、大体は「定昇って何?」と聞き返されます。
もはや「定昇」という言葉自体が、業界によっては「ベア(ベースアップ)」と同様に、死語になりつつあるのかも知れません。
長く勤めるだけでは給料が上がらない
当然のことながら、「定昇」がない会社では、長く勤めるだけでは給料は一切、あがりません。
例えば、私が過去に勤めていたコンサルティング会社も「定昇」というものは一切ありませんでした。
では、どのように給与が決まるのかと言えば、お察しの通り、主として「成果」です。
期末には、新卒を含めたすべての社員に一年間の成果と、果たした役割、勤務態度など、詳細に点数が付きます。
その点数は同僚との相対評価にかけられ、
「中位60%は1ランクアップ」
「下位20%はステイ」
と言った形で、翌年の給与の額が決まっていました。
なお、「一定の点数」を下回ると、ときにはランクダウン、つまり減給されることもありました。
マネジャーに昇格したにもかかわらず、成果が出せなかった人の給与を決めるための、「減給テーブル」のようなものも存在したくらいです。
したがって、年度初めに発表される「成果の基準」や「果たすべき役割」が詳細に書かれた評価表は、常に携行し、「この実績はクリアした、次はこれかな」と、自分自身の成果を常にチェックしなければ、昇給はかないませんでした。
今思えば、なかなかにシビアな世界です。
同僚たちの中には何年も全く給料が上がらず、辞めていく人間も数多くいました。
また、退職を勧めることはあっても、積極的に「クビ」にすることはなかったので、40代半ばになっても、新卒の3年目から4年目くらいの給与しかもらえないメンバーもいました。
(彼がなぜ、会社に執着していたのかは、今となっては謎です)
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4つの「問い」で、稼ぐための戦略を決める
そのような世界で働いていると、必然的に「給料」というものに対して、深く考えざるを得ません。
しかもこれは長期的な、人生を左右するほどの課題です。
したがって、ここには「戦略」が必要です。
ただ「戦略」と言っても、全く難しいことはありません。
戦略とは、要するに自らの時間的リソースの配分を考えることなので、具体的には、以下の4つの問いについて自問自答し、解を出せばよいだけです。
Q2どこまで出世できるか?
Q3この会社にいつまでいるか?
Q4最終的な身の置きどころはどこか?
上に行くほど短期的な問い、下に行くほど長期的な問いです。
これら全てに、整合性を持って自分自身が回答を持たない限り、キャリアは現状に引きずられ、「運任せ」となります。
それは多くの人の望まないところでしょう。
「どうしたら来年の給料が上がるのか?」
まず初めに、「来年の給与をあげるためには、今なにに取り組まなければならないか?」については、単純です。
評価基準を見て、今すぐに評価基準に沿った成果を出すだけです。
ただ、これだけに邁進するだけではダメです。
30代後半から40に差し掛かる頃になって、燃え尽きてしまう人が散見されますが、「短期的な成果」だけを追い求めると、燃え尽きやすい傾向にあるようです。
ある程度の「余力」を確保した上で、どの程度まで頑張れるかを、客観的に見る必要があります。
「どこまで出世できるか?」
したがって、2つ目の問いに対しても、早めに検討の必要があります。
それは「自分はどこまで出世できるか?」という問いです。
これに回答するためには、「会社の現在の事業」「数年後の会社の事業」を見据えて、それが、自分の得意な領域と一致するかどうかを考えなければなりません。
定期昇給のない世界では、「会社で給料を増やす」=「出世する(より重い職責を担う)」ですから、自分が得意な仕事が、会社にとって不可欠である必要があります。
その会社はマーケットに生かされていますから、これは要するに
「会社の事業が狙うマーケット」
に対して、自分のスキルがマッチしているかどうかを検証する行為となります。
これは個人の業績を出すよりも「高い視点」が求められるため、意図的にやらなければなりません。
役職につくことは難しいのか、課長、または部長、役員クラスまで出世可能か。
30歳ぐらいになってくると、ある程度の見当はついてくるでしょう。
そしてもし
「うちの会社で出世を目指す」
という結論になれば、Q1の「評価基準」についての問いをひたすら繰り返すだけとなります。
しかし、例えば「親会社からの出向者でないと、部長以上にはなれない」「自分のスキルと、会社が将来的に求めるスキルがマッチしない」「風土が合わない」などの制約があれば、
「いずれは会社から出て給料を上げることを目指す」という結論に至るでしょう。
余談ですが、現在、20代の方が「うちの会社で出世を目指す」と結論づけることは、
あまりおすすめできません。
終身雇用が崩壊した現在では、「1社にとどまり続ける」のは、スキル面でも人脈面でもリスクの高い選択であり、時代から取り残されてしまう可能性があるからです。
「この会社にいつまでいてよいか?」
そして3つ目の問い「この会社にいつまでいてよいか?」です。
「会社から出て給料を上げることを目指す」という結論に至ったのなら、「それはいつまで」であって、「どんな準備をしなければならないか」を考える必要があります。
今後、会社が大きく成長しそうであり、波に乗って給与が増やせそうであれば、スキルと給与を一挙に手に入れる良いチャンスです。
もう3年〜5年程度、粘っても良いかも知れません。
しかし、会社の売上が停滞し、給与もわずかしか上がらないような業界に長く身を置くことは、自分の市場価値の停滞に繋がりかねません。
よって、今年、来年から「次に移りたい、成長業界」に合わせたスキルを磨くための仕事を、現在の職場でもすぐに、意図的に獲得していく必要があります。
しかし、そういう目で職場を見渡せば、
「新しいプロジェクトがあるのだけど、やってみない?」というお誘いが意外にたくさんあることに気づくでしょう。
「この会社にいつまでいてよいか?」を自問自答することで、チャンスを発見する目を養うことができるのです。
なお、私は26歳のときに、この問いを自問自答し、
「35歳までには転職(もしくは起業)する」と決めていました。
しかし、実際に会社をやめたのは37歳。
webの仕事がしたかった私は、そのスキルが手に入るまでは退職せず、スキルを手に入れてから退職しました。
これは、描いていた計画どおり行かないことも多く、色々と悩んだ末の決断でした。
しかし、計画をしておかなければ「何が今まずいのか」すら知る方法がありません。
「なんとなくもやもやしている」という状態を回避するため、「いつまでこの会社にいてよいか」を問うことは非常に重要です。
「最終的な身の置きどころはどこか?」
そして、最後の4つ目の問い「最終的な身の置きどころはどこか?」です。
これは具体的である必要はありません。
どんなに業界を研究しても、どれほどニュースを読み漁っても、未来を予測することはできないのですから、具体的に「10年後どうする」などの質問は、ほとんど意味がありません。
それにもかかわらず、「最終的な身の置きどころはどこか?」との自問自答をしなければならない理由は何でしょう?
それは、「やるべきでないこと」を捨てるためです。
「戦略とは、捨てること」という言葉を聞いたことがある方もいるかも知れませんが、結局の所、人生は有限なので、「自分が絶対にやらないこと」を決めていく必要があるのです。
私は「コンサルティング業界」で働いていましたが、上述した26歳の時点で
「コンサルティング業界に最終的に身を置くことはない」と決めていました。
それは、コンサルティングという仕事が、極めて労働集約的で、属人的であると感じたことが理由でした。
同様に、
「メーカーはイヤだ」
「金融機関での仕事は私の望みではない」
「プラットフォームビジネス以外はやりたくない」
など、様々な方がいるでしょう。
これらの決断は、可能性を閉じているように感じるかも知れません。
ですが、それでいいのです。
シビアな言い方かもしれませんが、要するに、大人になるということは、可能性を狭めていくことです。
この「可能性を狭める」ことに自覚的である人が、結局の所、専門性と「稼げる領域」を作っていく事ができるのです。
以上、4つを自問自答することが、自分の「稼ぐ」戦略を見出す方法論だと考えられます。
*1 出所)厚生労働省「平成30年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」