身につける IoT、ウェアラブルデバイスの進化には目を見張るものがあります。
その特徴は、多様性。
様々な機能をもつ様々な形態のウェアラブルが開発され、次々と市場に登場しています。
本稿では次世代型デバイス、ウェアラブルの現況を明らかにし、今後を展望します。
ウェアラブルとは
ウェアラブル(wearable)デバイスとは、身体に装着して使う次世代型端末です *1:p.19。
冒頭でも述べましたが、その特徴は多様性。
リストバンド型、腕時計型、メガネ型、耳装着型、衣類型・・・と、さまざまな形態のウェアラブルデバイスが製品化され、その機能も多種多様です。
一般消費者向けの製品には、カメラやスマートウォッチなどの情報・映像型機器や運動量計等のモニタリング機能が組み込まれたスポーツ・フィットネス型機器などがあります。
業務用では、医療、警備、防衛等の分野で人間の高度な作業を支援するデバイスに加え、従業員の作業状況や環境を管理・監視する機能を備えたものが既に実用化されています *2:p.60。
また、働き方改革にあって、生産性向上の実現に寄与するツールとしても期待されています *3。
こうしたデバイスの開発およびそれに付随するサービスの提供には、電子・電気メーカーだけでなく、通信事業者、医療機器メーカー、スポーツメーカー *4:p.116 の他、現在では、メガネメーカー、文具メーカー、大学なども加わり、様々な業種の企業・研究機関が参入しています。
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世界の現況
ここでは、ウェアラブルをめぐる世界の現況を概観します。
世界の市場規模
まず、一般消費者向け製品に絞った市場規模の推移および予測をみましょう(図1)。
出所)総務省(2019)「令和元年版 情報通信白書」 p.60
2017年には落ち込みがみられますが、これは台数の減少によるものではありません。
情報・映像型は、2014年から2016年かけての市場立ち上がり期は、ハイエンド品が中心で市場が拡大しましたが、それ以降はアジア系メーカーが参入し低価格化が進んだため、規模が縮小しました。
ただ、今後はアプリの拡充に伴って裾野が広がり、市場が拡大すると見込まれています。
一方、スポーツ・フィットネス型は、先進国だけでなく新興国においても健康志向の高まりなどから需要拡大が見込まれます。
反面、アジア系メーカーの参入によって低価格化が進み、その影響から、2019年以降も市場規模は横ばいになると予測されています *2:p.60。
国別市場シェア
次に国別市場シェアをみます。
総務省の「IoT国際競争力指標 (2018年実績) 」によると、情報・映像型では、アメリカが約70%と著しく高いシェアを占め、次いで中国、韓国が続き、4位の日本はわずか2%です*5:p.11。
次に、スポーツ・フィットネス向け製品をみると、やはりアメリカがシェアNo.1で62.3%、次いで中国、フィンランドが続き、日本は3%でオランダと4位を分け合っています*5:p.11。
産業用ロボットでは高いシェアを誇る日本も、ウェアラブルの分野ではまだまだ伸びしろがあるようです。
2019年実績
次に、2019年度の実績をみてみましょう。
まず、デバイスの種類別シェアをみます(表1)。
表1 2019年 世界ウェアラブルデバイス市場デバイス別出荷台数(単位:百万台)・対前年成長率
出所)*6 IDC Japan(2020)「2019年第4四半期および2019年通年 世界/国内ウェアラブルデバイス市場規模を発表」
全体の前年比成長率は89.0%と順調な伸びを示しています。
シェアは、高い順に、耳装着型、腕時計型、リストバンド型です。
シェアNo.1の耳装着型は成長率 250.5%。
このデバイスは、オーディオ以外に、ノイズキャンセル、コーチング、言語翻訳、スマートアシスタントなどの多くの機能を備えた製品があることが、この急激な成長に影響しているものとみられます。
腕時計型は前年から22.7%増加、リストバンドの出荷も37.4%増加しました *6。
次に、世界市場におけるトップ5カンパニーをみましょう(表2)。
表2 2019年 世界のトップ5カンパニー出荷台数(単位:百万台)・対前年成長率
出所)*6 IDC Japan(2020)「2019年第4四半期および2019年通年 世界/国内ウェアラブルデバイス市場規模を発表」
トップ5のうち、アメリカ企業が1位と5位、中国企業が2位と4位、そして韓国企業が3位にランクインしています。
また、トップ5のシェアが全体の66.4%を占めています。
このように、トップ企業による寡占状態が続く一方で、小さなブランドは革新と差別化に挑み続けており、市場のこのような構造は当面維持されるだろうと予測されています *6。
海外の大学による開発事例
ここでは、ウェアラブル開発の事例として、海外の大学による最新の取り組みを2例ご紹介します。
1例目はカナダのウォータールー大学の研究者がカナダ国立研究評議会(NRC)とのパートナーシップのもとに開発した、新タイプの入力デバイスです *7。
このデバイスはTip-Tapと呼ばれ、無線周波数識別(RFID)タグを使用して、指先が触れたことを感知します。
安価でバッテリーやワイヤが不要。
手袋に取り付けたり、タトゥーのように一時的に皮膚に直接取り付けたりすることができます。
現在の主要な用途は、外科医の手術用です。
Tip-Tapを使い捨ての手術用手袋に取り付ければ、外科医はコンピュータをどこからでも操作できるため、メスを持ち上げるなどの他の動作に影響を与えず、効率的、衛生的に手術ができます。
こうした用途の他にも、入力デバイスを持ちにくいケース、例えば、工場の労働者、ジムで運動中の人々などがユーザーとして想定されています。
2例目は、スタンフォード大学によるタイムリーな取り組みです。
現在、既に市場に出回っているフィットネストラッカーと呼ばれるウェアラブルデバイスを使用すると、心拍数、皮膚温、血中酸素飽和度などのデータを取得することができます。
この事例では、専用のデバイスを使用せずに、参加者手持ちのフィットネストラッカーを活用します。
この研究の目的は、実際の症状が始まる前に、COVID-19などの感染症の発症を予測する方法を確立することで、COVID-19の感染者や濃厚接触者を中心にネットで参加者を募集しています *8-1・2。
参加者はアプリをダウンロードし、デバイスを継続的に着用して、毎日、症状調査に協力しますが、所要時間は1日1、2分程度です。
今後、ウィズコロナが長期化する可能性も指摘されていることから、この研究が成功すれば、ウェアラブルデバイスが感染症を把握するための有用なツールとなる可能性があります。
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日本の現況
次にウェアラブルをめぐる日本の現況を概観します。
まず、デバイス別の出荷台数をみましょう(表3)。
表3 2019年 国内ウェアラブルデバイス市場デバイス別出荷台数(単位:万台)・対前年成長率
出所)*6 IDC Japan(2020)「2019年第4四半期および2019年通年 世界/国内ウェアラブルデバイス市場規模を発表」
国内のウェアラブルデバイスの出荷は617.0万台、前年比198.7%と非常に順調でした。
シェアは、高い順に、耳装着型、腕時計型、リストバンドで、表1でみた世界の出荷台数シェアと同じ順番です。
シェアNo.1の耳装着型は前年比 303.5%と大変、高い伸び率を示しています。
また、腕時計型も前年比70.2%と順調で、これらの増加が全体の成長を支えたことがわかります。
次に、国内の出荷台数トップ5カンパニーをみます(表4)。
表4 2019年 トップ5カンパニー出荷台数(単位:万台)・対前年成長率
出所)*6 IDC Japan(2020)「2019年第4四半期および2019年通年 世界/国内ウェアラブルデバイス市場規模を発表」
アップルが突出したシェアを誇り、4位、5位もアメリカ企業です。
日本企業は2位のソニーのみで、3位にサムスンがランクインしています。
日本企業による業務用(BtoB)ウェアラブルの開発・ビジネス事例
株式会社日立製作所(以下、日立)は、2015年以降、AI技術とウェアラブル技術を活用した組織活性度(ハピネス度)を計測する技術について、実証実験を行いました *9。
2015年、三菱東京UFJ銀行(現 三菱UFJ銀行)で行われた試行実験もその一例です。
名札型ウェアラブルで行員の行動データを収集し、組織の生産性と相関性の高い組織活性度、および組織活性度に与える影響が大きい要素と影響度を定量的に算出しました *10:p.24。
こうして収集した大量のデータから、無意識な行動の多様性が組織のハピネスに寄与すること、さらに、ハビネス度の高い組織は生産性も高いことを確認しました *9、*10:p.16。
この成果はビジネスに結びつきました。
組織活性度の分析・活用による、組織活性化支援サービスです。
こうしたサービスを活用することは組織マネジメント上、有益であることが指摘されています *11。
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将来展望
2020年第1四半期の世界のウェアラブルデバイス出荷台数は、前年同期比29.7%増の7,258万台でした。
COVID-19という抑制因子にもかかわらず、耳装着型デバイスは前年同期比68.3%の成長となり、市場全体の54.9%を占めています。
それは、テレワーク時の在宅勤務で、周囲の騒音を低減する機能が役立ち、生産性向上にもつながったからだという推測があります。
ウィズコロナ下にある今日の状況では、健康とフィットネスの機能が非常に重視されているため、ベンダーはこれらの機能にフォーカスすべきだという指摘もあります *12。
前述の開発事例からもわかるように、ウェアラブルはデバイスの開発自体が目的ではありません。
真の目的は、その機能によって、ユーザーや社会に貢献するサービスを実現することです。
また、そこにこそ新たなビジネスチャンスのポテンシャルが潜んでいるといっていいでしょう。
日本は今後、この分野でどのような存在感を示すことになるのでしょうか。
*1 出所)総務省 「ICTスキル総合習得教材>1-2:データ収集技術とウェアラブルデバイス」
*2 出所)総務省(2019)「令和元年版 情報通信白書>第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0p.60>第1章 ICTとデジタル経済はどのように進化してきたのか>第2節 デジタル経済を支えるICTの動向」
*3 出所)経済産業省(2017)「ウェアラブル等のITを活用した働き方改革に係る懇談会を開催しました>1.背景・趣旨」
*4 出所)総務省(2016)株式会社三菱総合研究所「IoT 時代における ICT 産業の構造分析と ICT による 経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究 報告書」(2016年3月)
*5 出所)総務省(2020)情報流通行政局 情報通信経済室「IoT国際競争力指標 (2018年実績)」(2020年3月)
*6 出所)IDC Japan(2020)「2019年第4四半期および2019年通年 世界/国内ウェアラブルデバイス市場規模を発表」(2020年5月26日)
*7 出所)UNIVERSITY OF WATERLOO(2019)“WATERLOO NERS:New device enables battery-free computer input at the tip of your finger”(2019年11月28日)
*8-1 出所)Stanford MEDICINE Healthcare Innovation Lab(2020)
*8-2 出所)Stanford MEDICINE Healthcare Innovation Lab Fight COVID-19 through the Power of People
*9 出所)HITACHI(2019)ニュースリリース「AIの働き方アドバイスが職場の幸福感向上に寄与」
*10 出所)経済産業省(2017)「日立説明資料」
*11 出所)MFUG 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2019)経営戦略部[名古屋] シニアコンサルタント 有馬 祥子「AI・ICT を活用した組織活性化~ データに基づいた組織のコミュニケーション改革 ~」(2019年3月19日)
*12 出所)IDC Japan(2020)「2020年第1四半期 世界/日本ウェアラブルデバイス市場規模を発表」