老後の生活期間がどんどん長くなっている時代、早いうちから老後資金準備に取りかかるのは大切なことです。しかし、案外、忘れがちなのが特別支出です。若い頃から老後の生活をイメージするのは難しいものですが、1~2年に1度程度、大きな支出が必要となる特別支出を予定しておかないと老後資金が一気に減少するリスクもあります。
老後の生活をイメージしつつ、老後資金の準備に取り組むのは、なるべく早いほうが良いと言えるでしょう。
特別支出とは
ここでお伝えする特別支出とは、「日常の支出以外に発生するお金で、頻度は少ないけれども一度に支払う金額が大きい支出」と定義したいと思います。
たとえば固定資産税や、2年毎の車検費用なども家計のなかでは特別支出として見込んでおいたほうが良いでしょう。
他にも、次のようなものがあります。
- 冠婚葬祭費
- 旅行・レジャー費
- 自動車購入(買替え)費
- リフォーム、住宅修繕費
- 医療費
- 介護費用など
これらは人によっては不要な場合もありますし、必要となっても金額はまちまちです。また、旅行・レジャー費のように自分で回数やある程度の金額を限定できるものもあれば、冠婚葬祭費のようにいつ発生するか予定するのが難しいものもあります。
だからこそ、きちんと対策しておかないと、家計に大きなインパクトを与えることになってしまいます。現役時代はボーナスで帳尻を合わせることができても、貯蓄を取り崩すだけの老後では同じようなやり方はできません。
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老後の特別支出は現役時代より必要?
特別支出は現役時代よりも老後のほうが多く必要になる傾向があります。たとえば上で挙げた特別支出のうちでも医療費、介護費用、リフォーム費用などは主に老後に多く必要となります。たとえば医療費は、厚生労働省の調べによると65歳以降の医療費が一生分の約58%を占めており、70歳以降になると一生分の半分の医療費がかかっています*1。
実際には、いつ、どれだけの金額が必要になるかはわからないものですが、公的医療保険制度でどの程度カバーされるのかを確認し、不安があれば民間の医療保険で備えをしておくことは可能です。介護費用も同様です。
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今の生活と老後の生活はどう変わる?
実は特別支出のなかでも案外見逃しがちなのが、生活関連での特別支出だということをご存じでしょうか。
老後には住居のリフォームやリノベ―ションが必要になるとなんとなくはわかっていても、体の衰えに伴う生活用具の買い替えまで考えたことがある人は、ほとんどいないと思います。
若くて健康なうちは老後の生活をしている自分をイメージしにくく、どこを、どう直す必要が出てくるのかなかなか想像できないものです。だからといって老後の特別支出の準備を先延ばしにしてしまうと、後々の経済的な負担が大きくなりかねません。
そこで、特別支出の準備を始めるためにも、まずは今の日常の暮らしのなかで感じた不便をメモしておくことをおすすめします。
たとえば今でも長いパソコン作業が続くと、腕や肘に痛みを感じて重いものを持つのが大変というときがあると思います。そんなとき、台所の吊り戸棚から食器や鍋を取り出す家事をこなすと、さらに苦痛が大きくなるでしょう。実はこの経験が、どこを、どう直す必要が出てくるのかのヒントです。吊り戸棚の高さを変えたり、収納棚の位置を変えないと・・・と思えるようになるでしょう。
このようなちょっとした行動の辛い経験をメモしておくと、老後に必要な資金がイメージしやすいでしょう。疲れていたり、肩こり、腰痛、40肩、50肩があるときなどに感じた不便・不都合は、高齢になると日常的に不便・不都合になると思っておくといいかもしれません。
他にもこんなことから、老後の生活シーンをイメージできそうです。
- 台所、洗面所の床がぬれていて滑りそうになったとき
- シャワーを浴びるときにシャワーヘッドを取るとき(しまうとき)
- ふすまなどの敷居につまずいたとき
- 階段を踏み外しそうになったとき、など
老後の住宅リフォームといえば、階段に手すりを付けたり、バリアフリー化するイメージを持つ人は多いですが、他にも生活のさまざまな場面で改装を要することが想像できると思います。これらの費用は住宅メーカーのサイトなどでも紹介されていることが多いですから、大まかにでも費用をイメージしておきましょう。
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特別支出を抑える工夫
先に見た生活上のアクシデントは肩、肘、膝の力が弱くなってくることで起こりやすくなりますが、実は生活のさまざまな部分を見直すことで発生を抑えることも可能です。
たとえば、老後には重いものを持ったり、動かすことに負担を感じやすくなるものですが、小さな負担が大きな痛みになると足繁く医療機関にかかるようになってしまいます。そうすると医療費の増加に繋がります。
そこで、なるべく身体に負荷をかけないように、たとえば、台所周りではホーロー鍋や鉄釜などの重い調理器や食器類を、リビングや寝室では椅子などの家具類を軽い物に買い替えましょう。老後にまとめて買い替えるのは金銭的な負荷が大きくなりますが、若い頃から少しずつ買い替えていくと老後の家計へのインパクトは抑えることができそうです。身体への負荷や医療費も抑えられれば一石二鳥です。
身体のどんなところに負担がかかりやすいのかは、親や祖父母など身近な年配者の様子を窺ったり、お世話をしながら教えてもらうと良いでしょう。
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特別支出を含めて老後の準備をしておこう
老後の特別支出にいくらかかるかは個人の生活スタイルや希望などが反映しやすく、ファイナンシャルプランナーなどの専門家でも意見が分かれるほど、大幅な個人差が出やすいものです。予想以上に費用がかかって老後に困窮することのないように、多めに見積もっておくと良いでしょう。
しかし、無職高齢者夫婦世帯の日常生活費用として1,300万円~2,000万円*2_21必要と言われているように、長い老後生活では高額な資金準備が必要です。これに特別支出を加えると、さらに大きな金額になると考えられますから、早いうちから計画的に準備しておきましょう。
医療費や介護費用などは民間保険会社の医療保険や介護保険を利用することもできますが、他の費用については現金化しやすい金融商品を利用するのが良いかも知れません。
預貯金だけでなく、一部の資産については高い利回りを期待できる積立投資なども検討してはいかがでしょうか。
遠い先の老後生活をイメージできないのは仕方ないことです。
とはいえ老後に必要となる特別支出の準備を先延ばしにせず、生活目線で必要となるお金を見積もっていきましょう。
*1 出所)厚生労働省「医療保険に関する基礎資料/生涯医療費(平成29年度)」
*2 出所)金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書(令和元年6月3日)」