足下、急速に注目を集めているテレワーク。自宅で行う在宅勤務のほか、カフェやサテライトオフィスを利用する等スタイルも様々あり、リモート(遠隔)ワークとも呼ばれています。働き方が多様化する昨今、このテレワークを取り入れる企業や利用する人も増えてきました。日本における導入状況や今後の可能性について見ていきましょう。
多様化する働き方 テレワークとは
テレワークは「ICT(情報通信技術)等を活用し、普段仕事を行う事業所・仕事場とは違う場所で仕事をすること」*1と定義され、近年、働き方改革の施策の1つとして期待されるようになってきました。政府は「ワークライフバランスの実現 、人口減少時代における労働力人口の確保、地域の活性化などへも寄与する、働き方改革実現の切り札となる働き方」*2と位置付けています。
大きくは自営業の人が行う「自営型テレワーク」と、企業に雇用されている労働者による「雇用型テレワーク」の2種類ありますが、ここでは雇用型について見てみましょう。雇用型の中でも下記の表のとおり、勤務を行う場所によって「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」「モバイル勤務」の3つに分けられています。
出所)厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」P1を基に三菱UFJ国際投信作成
利用状況ついて2018年度に行われた国土交通省の調査によると、雇用型就業者におけるテレワーカーの割合は16.6%であり、2016年度調査時の13.3%よりもわずかに上昇しました*3。下記のグラフからは勤務先に「テレワーク制度等が導入されている」と回答した人の割合も徐々に増加していることがわかります。
出所)国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-平成31年3月」P15「2-6. 勤務先のテレワーク制度等の導入割合」を基に三菱UFJ国際投信作成
また、テレワークは技術者、事務職、営業職、管理職など、多種多様な業種や職種で実施され、主にコンピュータとインターネットの使用によってメール連絡や情報収集、資料作成、社内会議への参加等が行われています。
出所)国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-平成31年3月」P14「2-5.業種別テレワーカーの割合」
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自由時間の増加も 効果と課題
では、実際に行っている人はどのように感じているのでしょうか。雇用型テレワーカーのうち、テレワークの実施効果について「全体的にプラス効果があった」と回答した人の割合は55.0%と半数を超える結果となりました*4。その理由としては「自由に使える時間が増えた」が49.3%と最も多く、次いで「通勤時間・移動時間が減った」が48.4%となっています。
しかし、逆に「仕事時間(残業時間)が増えた」といったマイナス効果も挙げられています。また、業務の効率については「上がった」との回答が46.3%に対し、「下がった」も29.2%となっており、個人差があるようです。
企業側としても労働時間の管理等が課題となっています。厚生労働省は2018年に「情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク)」 の適切な導入及び実施のためのガイドラインを改めて策定し、長時間労働等を防ぐ手法として以下のような手段を推奨しています。
- メール送付の抑制
- システムへのアクセス制限
- テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止
- 長時間労働等を行う者への注意喚起
出所)厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン<概要>」
他にも情報セキュリティの観点からのリスクや通信機器の突然のトラブルに備えたマニュアルの作成及びシステムサポートといった対処法を整備しておくことが、利用者の不安軽減のためにも肝心です。
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テレワーカーの待遇 給与への影響は
上記のガイドラインの中では「テレワークを行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用」されると明記されている一方、業績評価等については「評価者や労働者が懸念を抱くことのないように、評価制度、賃金制度を明確にすることが望ましい」と記されているにとどまり、特に法律等で定められているものではありません*5。
厚生労働省テレワークモデル実証事業の際に行われた企業アンケートでは、「通常勤務者と評価観点は同一である・特に変えていない」が54.7%と過半数を占め、2位の「成果・業績に対する評価」(17.9%)を大きく上回っており、テレワーク制度を利用すること自体が評価に影響することは多くはなさそうです*6。また、給与及び在宅勤務で生じる通信費等の経費についても各々の企業によって設けられた規則次第となっており、就業規則でしっかりと基準を示すことが企業とテレワーカー間でのトラブル防止のためにも必須となっています。
ある企業の導入事例では「郊外で暮らしたいというプライベートな理由でテレワークを志向する従業員もいるので、通常業務以外の仕事をしないため在宅勤務の日は25%給与をカットしている(育児・介護・自らの傷病の治療の場合はカットしていない)」*7というケースもあり、テレワーク実施の理由によって待遇を変える企業もあるようです。
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育児の時間も確保 柔軟な利用事例
厚生労働省が「テレワーク活用事例-仕事と育児・介護の両立のために-」という資料をまとめているように、テレワークは育児や介護との両立の面からも着目されてきたものです。利用者アンケートでは「テレワークを利用する日は帰宅する子どもを家で迎えられ、早い時刻に一緒に食事ができて嬉しい」といった意見や「往復 2 時間の通勤時間を短縮することで、仕事や子どもとの時間がより充実する」等のメリットが挙げられています*8。
テレワーク制度の利用者は必ずしも毎日利用しているわけではなく、月に数回程度であったり、会社に出勤する前後に自宅でテレワークを取り入れたりと、1日の中で使い分けている人もいます。たとえば、育児をしながら週 1 ~ 2回テレワークを行っている女性の1日のタイムスケジュール例からは、会社勤務の日でも早めに切り上げて保育園に子どもを迎えに行き、その後、自宅において再び仕事に戻るという事例も見受けられます。
また、交通の利便性が低い地方においてはテレワークによる雇用創出も期待され、地方自治体と企業が一体となり、空き家や廃校を改築してサテライトオフィスやコワーキングスペースを整える等、地方創生や子育て世代の移住に向けた取り組みも各地で行われています。
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まとめ
非テレワーカーに対する調査では、今後テレワークを「してみたいと思う」と回答した人の割合が、2年前の同調査より5.5ポイント上昇し、44.7%と5割近くまで増えました*9。
厚生労働省ではテレワーク等を導入している企業に対して助成金を設けていることもあり、制度が整って取り入れる企業も増えれば、テレワークがより身近な選択肢となり得るでしょう。
*1 出所)国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-平成31年3 月」P5
*2 出所)総務省「テレワークの推進」はじめに
*3 出所)国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-平成31年3 月」P11「2-2. テレワーカーの割合【平成28~30年度の推移】」
*4 出所)国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-平成31年3 月」P18「2-9.テレワークの実施効果」
*5 出所)厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン<概要>」
*6 出所)総務省「情報システム担当者のための テレワーク導入手順書 平成28年3月」P46
*7 出所)総務省「働き⽅改⾰のためのテレワーク導⼊モデル 平成30年6⽉」P24「課題F事例」
*8 出所)厚生労働省「平成28年度テレワークモデル実証事業 テレワーク活用の好事例集-仕事と育児・介護の両立のために-」P30「従業員Dさん」及びP32「従業員Gさん」
*9 出所)国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-平成31年3月」P19「2-10.テレワークの実施意向」