人生の転機を乗り越えるのに必要な4つのSとは

人生の転機を乗り越えるのに必要な4つのSとは

就職、転職、結婚、自分や家族の病気、介護、人間関係のトラブルなど、長い人生の中にはさまざまなことが発生します。そのような身の回りの急激な環境の変化や、価値観を変えるような出来事はいくつも発生します。このような大きな変化は、避けて通ることができません。
それでは、私たちはどのようにして、問題に対処していけばいいのでしょうか?

キャリア理論という観点から、転機を乗り越える方法について、ご紹介します。

人生の転機について扱ったキャリア理論

人生の転機について扱ったキャリア理論としては、ナンシー・シュロスバーグの理論を挙げることができます。シュロスバーグは、1999年に、全米キャリア開発協会(NCDA)の会長を務めるなど、アメリカを代表するキャリアの理論家であり、実践家でもあります。*1,2

シュロスバーグが転機についての理論をまとめた背景には、アメリカでの社会の大きな変化がありました。

1970年代には、コンピュータをはじめとする技術の著しい発達や社会の複雑化により、今までになかった新しい仕事が増えた半面、それまでにあった仕事が消滅するということが起こりました。さらに、1980年代の終身雇用の崩壊や組織のスリム化に伴うホワイトカラーの排除の顕在化により、失業の増大が社会問題になるということも起こりました。*2

シュロスバーグが転機に関する理論をまとめた背景には、このような急激な社会の変化に対処する必要性があったわけです。

一方、現在の世界の情勢はというと、単純な事務作業は人工知能に置き換えられていき、人間は、人工知能にはできないような仕事をする能力が求められるようになると言われています。背景を見ると、シュロスバーグが転機に関するキャリア理論をまとめた時期とよく似ています。

「人工知能に仕事を奪われてしまうのではないか」という不安や、「新しい仕事に、どのように適応していったらいいのか」という疑問に対処するうえで、シュロスバーグの考え方は役に立つでしょう。

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転機とは、どのようなものか

人生で起こる転機とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?転機について対処するためには、まずそのことを知る必要があります。

シュロスバーグの理論によると、まず転機は、ある出来事が起こることと、予期したことが起こらないことの二つに分けられます。

ある出来事が起こることはイベントと呼ばれ、大学への進学、就職や起業、身近な人の死、離婚などが該当します。一方、予期していたことが起こらないことはノンイベントと呼ばれ、志望した大学に進学できなかった、満足のいく会社に就職できなかった、結婚したい相手が見つからなかった、ということが該当します。

イベントについてはさらに、それが予期していたものなのか、それとも、全く予期していなかったものなのかに分かれます。

シュロスバーグの理論では、このように転機の起こり方によって、予期していた転機、予期していなかった転機、期待していたものが起こらなかった転機の3つに分類されます。*2

さらに、これらの転機の影響度を決める要因として、シュロスバーグは次の3つを挙げています。*3

まず1つ目が、その転機自体は、どのようなものなのかです。

先ほどの3つに分類されるうちのどれに該当するのかということに加え、日常生活にどれくらいの影響を及ぼすものかということも重要です。他にも、転機が訪れたタイミングは、時期的に良かったのか、それとも悪かったのかや、準備するだけの余裕があったのかによっても、影響度は異なります。また、転機に関して、何らかのコントロールや影響力を行使できるのかや、その転機は一時的なものであるかどうかによっても、対処法に違いが出てきます。

2つ目は、本人が転機に対して、どう向き合うかです。

本人がその転機を、肯定的にとらえているのか、それとも否定的にとらえているのか、さらには、自分でコントロールできるものだと思っているのか、それとも宿命だとあきらめているのかによって、転機への対処の姿勢が変わってきます。また、本人にその転機に対処できるだけのスキルが備わっているのかや、過去に似たような体験をしたことがあるのかによっても、前向きに取り組めるかどうかに影響します。

3つ目は、支援システムがあるかどうかです。

シュロスバーグは、支援があれば転機の難易度は下がるとしています。具体的な支援システムとしては、支えてくれる家族や友人、お金や物的資源、サポートしてくれる公的機関や民間団体などが挙げられます。大きな問題を一人で抱え込んでしまわずに、周囲にサポートを求めるということも大事になってきます。

この3つが、転機への向き合い方を決める上で、非常に重要になってきます。人生の転機に対処するためには、まずはその転機がどのようなものであるのかを把握することが、最初のステップとなります。

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人生の転機を乗り越えるための4つのS

直面している転機がどのようなものであるのかを把握できれば、次にその対処法について考えます。対処法を考えるうえで重要となってくるのが、変化をコントロールするために利用できるリソース(自分が有している能力や物的な資産)の点検です。

シュロスバーグは、そのようなリソースを、次に示すように4つのSとしてまとめています。*1,2

1.状況(Situation)

自分が置かれている状況を把握することは、転機への対応策を考えるうえで、必要不可欠です。

その転機の引き金となったことは何なのかや、起こった時期はタイミングとしてどうだったのかということは、転機の影響度を考えるうえで、重要になってきます。また、同じ状況を過去に経験したことがあるのか、自分でコントロールが可能な部分があるのかといったことは、転機に対してどのような姿勢で取り組むのかに影響します。

一時的なものなのか長期的なものなのかといったことも、対処する必要があるかどうかを判断するうえで、ポイントになってきます。

2.自己(Self)

どのような知識や経験、スキルを有しているのかという個人的な能力も、転機を乗り越えるための大事なリソースです。また、自分は目の前の出来事の圧倒されてしまうタイプなのか、それともチャレンジ精神があるタイプなのかといったメンタル的なことも、転機と向き合うためには重要です。

転機を自分の力でコントロールできるという自己効力感がどれほどあるのかということも、周囲の人の支えがどれくらい必要になってきそうなのかの判断に必要になってくるでしょう。

3.支援(Support)

転機に関して、周囲からの支援がどれくらい得られそうなのかということも、チェックしましょう。家族や周囲の人は協力してくれるのか、公的機関や専門家の力を借りられそうなのか、その他に頼れそうな人はいるのかなど、支援の有無によって、転機の乗り越えやすさは大きく異なります。

先ほども述べた通り、支援があれば転機の難易度は下がります。一人で全てを抱え込んでしまおうとせず、時には誰かを頼るということも、大事になってきます。

4.戦略(Strategies)

状況、自己、支援について把握できれば、次は具体的な戦略を立てる必要があります。

転機への対応方法としては、状況を変える対応、認知・意味を変える対応、ストレスを解消する対応の3つがあります。

状況を変える対応とは、自分で資格を取るために勉強したり、支援を受けながら転職活動をしたりといったことです。戦略としては、まずはこの対応方法を取ることになるでしょう。

認知・意味を変えるというのは、転機に対する受け止め方を変えることです。転機によっては、どうしても状況を変えることができないという場もあります。そのようなときには、その転機をどのように解釈するのかという受け止め方を変えてみるというのも、一つの手段です。

ストレスを解消する対応というのは、リラクゼーションや運動などによって、ストレスを解消することです。状況も受け止め方も変えることができないという場合、そのストレスは相当なものです。ストレスによって潰れてしまわないようにするためにも、ストレスを解消するという対応が必要になってきます。

以上が、人生の転機を乗り越えるために必要な4つのSです。転機に直面した時には、まずはこの4つのSを点検し、それに基づいて対策を考えていくことになります。

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まとめ

人生の中で、何か大きな転機に直面することは、避けては通れません。まずは転機の種類を知り、4つのリソースを点検しましょう。

転機を乗り切るための戦略を立てれば、次に必要なリソースを強化します。そして、いくつかの戦略を練ったうえで、その中から成功が期待できる自分に合った戦略を選びます。

転機そのものはコントロールできなくても、4つのSを強化して対処していくことは可能です。何かの転機に直面された際に、ぜひとも参考にされてみてはいかがでしょうか。

*1 出所)「新時代のキャリアコンサルティング」(労働政策研究・研修機構 編著)

*2 出所)「新版キャリアの心理学 第2版」(渡辺三枝子 編著)

*3 出所)「国家資格キャリアコンサルタント養成講座 TEXT3」(日本マンパワー)

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